ブラック企業の優等生
優秀な社員の朝は健康的だ。
午前3時に起床。シャワーを浴びてから身仕度をする。通勤中は新聞に目を通す。
午前5時に出社。大抵の社員は腸炎でトイレ出勤だが、僕は優秀なので自分のデスクに向かう。そこから正午までぶっ通しでパソコンのキーボードを叩く。休憩は不要。フロアは私語ひとつなく、カタカタと無機質な音だけがあちこちから聞こえてくる。
頭がぼんやりしてくる午後1時、カップ式自販機で買った珈琲5杯に、ストックしている固形のブドウ糖を鷲づかんでぶち込み、それら全てを一気に飲み干す。眠気覚ましと、脳味噌への餌を補給して午後からの仕事に励む。
午後8時を過ぎた頃、目が霞むのでパソコンとの睨めっこを一時中断。体が怠い。頭が痛い。何も入っていないのに胃がムカムカして、吐き気がする。きっと疲れているのだろう、ということでクエン酸ドリンクを飲んで疲労回復だ。他の社員は依然として沈黙を守っていて、フロアに響くキーボードの打鍵音が心地よい。仕事に集中できる。仕事のことしか考えられない。働きやすい職場環境だ。なんていい会社だろう!
パソコンの右下に表示された【23:45】の文字を確認して、そろそろ切り上げるか、と高速で帰り支度を終えて退勤する。いつだったか、会社に貢献するのが社員の存在意義だと社長は説いた。全くもってその通り。どの企業からも不採用された僕を雇ってくれた社長は命の恩人だ。だから身を粉にして働いて、会社を支え、貢献しなければならない。今年入社した新人は洗脳だと言って半日で辞めた。社長の熱い思いを理解出来ないとは。これだからゆとり世代は。駅まで全力疾走して終電に乗り込む。いつもは電車もバスもなくなってタクシーで帰るけれど、ほら、半年ぶりに日付けが変わる前に会社を出ることが出来た。なんて健全な会社だろう!電車のなかでうたた寝して睡眠時間を確保。
帰宅後は目覚ましをセットしてベッドにダイブ。時計をチラ見し、二時間も眠れることに感謝する。腹は減ってるが食欲はないので夜食は要らない。というより、最近食べ物の味が分からないので食事がちっとも楽しみじゃない。まぁいいか、食べる暇があるなら働かなければ。
ようし、明日も仕事頑張ろう。