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バロンの物語  作者: 月島雫
8/17

〈8〉旅の始まりからしばらく 


 ―――――

 ―――


 ・・・・



 自転車に乗った郵便屋が、しずくの家へとやってくる。


 自室で、カバンに衣類を詰めるため、吟味しているしずく。


 郵便でぇす、と声がして姉が対応、すぐに玄関の閉まる音がする。



「お手紙の季節ねぇ」



 イスに座っている母の元へ歩きながら、姉が言う。



「だいたいは母さん宛てのと、わたしの元彼から」



 自室からリビングにやってくるしずく。



「私宛のは?」


「何枚かあるよ~・・・・・・ゼロって子からのはぁ・・・ない」


「ああ・・・そう・・・」



 テーブルの上にいたバロンが言う。



「詳しいことは言えないが、彼の里の決まりで手紙が出せないらしい」


「手紙くらい、いいじゃないっ」


「しょうせいに言われても、まかりとおらん」


「分かってる・・・八つ当たりしてごめん」


「お気になされるな」



「とうとう、今日が来ちゃったわねぇ~」



 しずくは自室に戻る。



 姉の声が聞こえた。



「お花屋さんには挨拶に行った方がいいのかしら?」


「しずくのしたいようにさせればいいのよ」


「ちょっと、しずくと話してくる」



 自室で泣き出したしずくの頭をぽんぽんと撫でる姉。



「家のことはわたしに任せときな」



 しゃくりあげながらも、うなずくしずく。


 また姉の手が、ぽんぽんとしずくの頭を撫でた。



 ――

 ―――・・・昼近く。



 玄関先で、行ってきますの挨拶をするしずく。


 母と姉が見送ってくれる。


 しずくは振り向かないように意気込んで、里をあとにした。


 バロンを連れて。 



 ――――・・・

 ――


 定員千五百人の客船が、出航した。


 その船の中に、しずくとバロンも乗っている。


 ラウンジにいるしずくは、注文した飲み物を受け取って、気まぐれに選んだ席に座った。


 カバンの中にいるバロンに、しずくはそっと話しかける。


「もう三度目の港ね」



「この出航で、魔法領国行きさね」



 しずくはぱちくりして、隣を見る。


 そこには、カクテルをあおっている水色の髪の美少女。


 しずくは、少し年下だろうか、と思った。



「いつの間にいたの?」


「いいのいいの」


「カクテル飲んでるのっ?」


「ノン」


「ああ、ジュース?」


「ノン」


「ん?」


「カクテルジュース」


「ええっ?」


「なに、このこ・・・」


「何歳?」


「言わない」


「わたし、しずく」


「ああ、名前?」


「そう。あなたは?」


「言わない」



 しずくは苦笑。



「少しムカつく」



 思わず笑い出す水色髪の美少女。



「なんだか、ひとがよさそうなひと」


「ああ、ありがとう」



 水色髪の美少女は、いい席に座ってるなぁって思って、と言った。


 良かったら隣に座ったら、としずく。


 素直に隣に座り、水色髪の少女は口元を上げた。



「あんたは、なんでスカートにズボン合わせてるの?」


「ああ、また聞かれた・・・」


「わたし、何気に流行作ってるんだけど?」


「そうなんだ」


「あなたが考えたの?ワンピースにズボン」


「そう。ファッション的にも、実用的にも、旅にはいいかも、って」


「へぇ~・・・ほうほう。実用的にも・・・」



 残っていたカクテルジュースを口にする水色髪の美少女。



「わたし、魔法使い。国に帰るところ」


「そうなの?どんな魔法が使えるの?」


「いいの、いいの。言わないの」


「ああ、なんだ・・・」


「でも、そのファッション広めるから、教えてあげることがある」


「ん?なぁに?」


「もうすぐ魔法領国に入るけど、市場に行くんだったら、裏路地で服を買えばいいよ」


「市場には行くつもりだけど、裏路地って・・・危なくない?」



 水色髪の美少女は、自分がつけているブローチをおもむろに外す。


 そしてそれを、しずくに示した。



「これをあげる。旅路、つけておけばいい」



 少し警戒するしずく。


 カバンの中から、バロンが現れる。


 そして少女とブローチを見て数秒後、ほう、と感心した。



「これは、かなり上物の『お守りもの』」


「そう。これを付けていると、色々と便利だと思うよ」


「もらっておくといい」


「もらっていいの?」



 水色髪の少女は、しずくにブローチを手渡した。



「魔法使いが作った服と、合わせるといいよ」



「市場の裏路地・・・」



 ブローチから水色髪の美少女に目を移そうとすると、視界に見当たらない。



「消えた・・・?」



 バロンがテーブルの上に座って、足を組んだ。



「また、魔法使いに出会う機会がありそうだ」

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