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バロンの物語  作者: 月島雫
3/17

〈3〉オレンジ色の口紅



「え」


「本当だって」


「赤い薔薇なんて、そこらに普通にあるじゃない?」



 むずかしい顔をするゼロ。


 その表情を不思議そうにするしずく。



 そこに「失礼しますよ」と言って店内に入ってきたのは、美女だった。


 カウンターまで来ると、店の店主に言う。



「薔薇の花束を作ってほしいの。百本よ」



 驚いて立ち上がるゼロ。



「ほーう」 



 カウンターの内側にいた店主も立ち上がる。



「ゼロは座って、しずくさんのお相手を」


「え、ああ」



 少し残念そうに、そしてどこかほっとした様子でイスに座るゼロ。


 女客は、ハスキーな甘い声で言った。



「かわいい恋人さんたちねぇ」


「ええっ?お姉さんのほうがかわいいですよ」



 しずくの本音に、女客は驚いた。



「まぁっ・・・はっはっはっはっは」


 美女の豪快な笑い方にびっくりするしずく。



「お姉さんの口紅の色・・・珍しい」


「新色だな。オレンジ」


「いいなぁ~」


「店主、そこの御嬢さんに・・・そうねぇ、この花を一本、贈らせてもらうわ」


「え」


「はいよ」



 白百合の花をもいで、しずくの耳元に飾る美女。



「聖なる乙女に、お姉さんから祝福よ」


「ありがとうございますっ。わ~っ」



 すぐに花にふれようとするしずくは、それをためらう。



「まぁ、贈りがいのある子ね。いい顔するわ」



 しずくはゼロを見た。



「だってっ」


「うんうん、似合う。綺麗だ」


「ほんとにっ?」


「はぁ・・・ほんとにうちの白百合は綺麗だ」


「ちょとっ」



 くつくつと笑う美女は言う。



「きっと、御嬢さんのことの比喩よ」


「できましたよ」



 店主が声をかける。


 おおぶりな花束はすでにラッピングされていて、美女は小計を済ませると店を出た。 


 彼女が手をふるので、ふわふわした気持ちで手をふり返すしずく。


 夢見心地、そのままゼロを見る。



「あの口紅みたいな色の薔薇って、作れないかしら~」


「なんだって?」


「ラピスラズリの鉱脈よっ」



 顔をしかめていぶかしがるゼロ。


 ゼロは店主を見る。


 店主は肩をすくめてみせた。



 そこでまた客が来て、何人かが店に入って来た。



 しずくは立ち上がる。



「そろそろ失礼しないと・・・お茶ありがとうございます。美味しかったです」


「はいはい。またいつでもいらっしゃい」


「はい。失礼します」



 しずくは会釈すると、ゼロに手を振った。



「またね」


「え、ああ・・・うん」



 でっぷりと太った男客が、ゼロに言う。



「うらやましぃねぇ」


「うるせーやい」



 店の店主はゼロに言った。



「しずくさんは、お前と付き合いだして、喋り方がしっかりしてきたと思うよ」                                            




 ゼロは店先に急いで出る。


 モザイク石の道を歩くしずくに声をかける。



「しずくー、送って行くか~?」



 しずくが振り返りながら、手をふる。



「いいー、大丈夫~」


「今度会う時は、俺のこと君付けするなー。『ゼロ』って呼べなーっ」


「えっ」



 ゼロは店先から店内にわざと入り、会話を区切った。


 それに気づいたしずく。


 周りにいた人々が、くすくすと笑っている。



「バカーーーーーーーーーーーっ」



 恥ずかしい分思いっきり、叫ぶしずく。


 側にたむろしていた、男子のひとりがしずくに聞こえるようにいう。


 今度会う時は呼び捨てで~、と身体が平均よりふたまわりは大きな子が言う。



「うるっさいっ」



 こわっ、と言うと、周りの男子たちが笑い出した。

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