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バロンの物語  作者: 月島雫
1/17

〈1〉マロン


 ――――――――――

 ―――――




 ひとりぼっち おそれずに いきようと ゆめみていた






 耳をすませば

 




  * * *




「・・・」


 万年筆でそれを日記帳にメモをして、赤毛を指先で弄う少女。


 少女は木製の机の前面にある、窓の外をなんともなしに見た。


 ふと、栗の木を見つめてしばらく。


「しずくー、今何しているの~?」



 部屋向こうから聞こえてくる母の声に、しずくは少し大きな声を意識して言う。


「栗の木のイガイガを見ていたのーっ」


「ちょっと来てくれる~?おつかいを頼むわ~」


「はーいっ」


 しずくは窓にカーテンを引くと、母の声のした方に向かった。



 * * *


     

「このバスケットをお花屋さんに頼むわ」


「何入っているの?」


「イガイガよ」


「痛っ」


「ナフキンをかけておきましょう」


 * * *



 おつかいを頼まれ、バスケットを奥様持ちして花屋へ向かうしずく。


 さくさくと歩く彼女に、通りがけのスーツの男が帽子を軽く上げて挨拶する。


「やぁ」


「こんにちは」


「今日はいい風が吹いているねぇ」


「いいことあるといいですね」


「お互いにねぇ」  


 男に会釈をして、行き先を見つめると、少し先に目的地がある。


 そこは花屋で、観賞用の小さなカボチャを店頭へ運び出してきた少年が見えた。


 しずくは不思議そうに首をかしげる。


 


「こんにちは」


「あ~、はいはい、ちょっと待って~」


「あなたは?」



 カボチャにかまっていた少年がしずくに振り向く。


「手伝い」


「ああっ、どうも。これ・・・」


「ん?」


「えっと・・・栗・・・」


「栗?」


「栗・・・」


「なに、押し売り?」


「いえあのっ・・・これをここへ届けて来いって言われてきたのだけれど」


「ああ~・・・ちょっと待ってね。じーじーいっ」


「ファ~?」


「くーりーっ、女が持ってきてる~っ」


「ああ~、頼んでおったー」


 花屋の店内から、姿をあらわす白ヒゲのこざっぱりした老人。


「あれま、てっきりお母さんの方かと。いらっしゃい。お茶でも飲んでいくかね?」


「いえ、ついでだって買い物も頼まれているので、今回は」


「では、またの機会に」


「はい・・・あ、あの、イガイガです」


 バスケットを受け取った老人がにこやかに言う。


「こちらは孫でね。一時期と約束してあずかることにしたんだよ」


「あ・・・お孫さん・・・」


「どうも」


「どうか仲良くしてやっておくれねぇ」


「はい」


「仲良く、とか、何時代?」


「これこれ」


 栗を店頭に置くことにしたらしく、老人はしずくに背を向けた。



「お前、名前なんていうの?」


 思いっきり花屋の美少年にベロを見せて、態度を変えるしずく。


「んべーーーーーーっ」


 少年がぎょっとする。


 しずくは店主の老人がふりむく気配を感じ、居ずまいをただす。


「では・・・」


「ああ、ありがと~」


 花屋の少年に、こぶりに手を振るしずく。


 微笑までたたえている。


「また今度」


 呆然とする花屋の店主の孫。


「ありえねぇ・・・」

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