非日常手前
想像するは楽しいんですがそれを文にするのはなかなかむずかしいですね……。
「よし、帰りのホームルームは終わりだ。気を付けて帰れよ、それじゃ解散」
それを合図にみんなが散り始める。
「天音じゃあな」
「天音じゃあね」
さっき天音をいじってきた二人が挨拶してきた。髪を短く切り揃えて活発な少年という感じなのは佐藤 陵。高校からの付き合いだ。
もう一人は眼鏡をかけていて落ち着いた感じの平田 恵介。陵と一緒で高校からの付き合いだ。
「うん、またね」
二人は天音と違って部活があるからここでお別れだ。ちなみに陵は野球部で恵介は弓道部だ。天音は帰宅部である。
帰るしたくをしていると竹刀と鞄を持った刹那が声をかけてきた。
「天音、今日もよってくの?」
一瞬なんのことかと思ったがすぐに理解した。
「うん、今日も音楽室にいく予定だよ。やっぱり引きたくなっちゃうんだよね、楽器を」
天音は物心ついたときから楽器に触れてきた。ピアノにヴァイオリン、トランペットにクラリネット。一通り全部吹けるし引けるが特にこの4つの楽器が得意だった。小さい頃は何回も賞をとったほどだ。
夜桜高校は運動部は強いものの文化部は全然で部員も少ない。そのためか楽器室も滅多に使われることがないので天音が好き勝手使ってる形になっている。
「天音が吹奏楽部とか管弦楽部に入れば絶対有名になると思うのにな。入ろうとは思わないの?」
刹那が真っ直ぐ天音を見つめる。
「そんな力は僕にはないよ。でもそうだね。入部しない理由として縛られるのが嫌だからかな。大会で勝つために練習をする。お客様の満足させることのできる曲を提供する。それが悪いとは言わないけど僕はもっと自由にやりたいから」
小さい頃に様々な大会、ステージ、イベント、それらを経験してきた。でも天音自信、自由で何にも縛られない空間での演奏に快感を覚えて以来そういったものに出ないようにして今にいたる。
その理由を聞いて刹那は天音らしいと思った様子だった。
「そういえば最近聴いてないなぁ。今度、演奏聴かせてね。じゃまた明日」
そういうと走って部活にむかってった。時計を見ると剣道部の部活開始時間の2分前だ。
「はは、時間ギリギリじゃん。無理しない程度に頑張って」
昔から無理して頑張ることが多かった。多分大会近いから最近もどうせ無理してるのだろうと思ったからこそ出てきた言葉だった。聞こえたかわからないが少し大きめな声で伝え天音も帰ろうとする。
耳をピクッとさせクルッと刹那が振り向いてこっちにも戻ってきた。
「どしうしたの? 忘れ物? ってちかいちかいおわっ……!」
歩いてきたそのままのスピードで抱きついてきた。
「んん~大好きだよ~天音。本当一番の理解者だね」
「刹那いきなり過ぎてビックリするすじゃん。どうしたの? 」
「ちょっと充電! あ、時間ヤバイヤバイじゃあね! 」
そう言ってパタパタと部活に向かった。その後ろ姿を見送り天音も自分の目的地へ向かうことにした。
ガラガラッ ピシャッ カチッ
念のために鍵をかけ中に入ると木製、鉄、松脂、それらが混ざった香りがする。
周りを見渡すと弦楽器、木管楽器、管楽器、打楽器等がケースに収納され保管されていたり立て掛けてある。
これだけの楽器を収納しているせいもあって結構狭いが通れないことはない。
蹴らないように気を付けながら奥に進む。
「さて、今日は」
そう言って目の前の扉を開く
「久しぶりにこの子を引こう」
天音の視線の先にあるのは何百万、何千万とかかる立派なグランドピアノだ。
天音がいる部屋はそのピアノのために作られたと言ってもいいような設備をしていた。湿気調節機に防音のかべ、扉。ピアノの調整道具。最高の設備だ。
ピアノは少しホコリを被っているが壊れてるところは見た感じない。扉の鍵を閉めてピアノに近づく。試しに全ての音をならしてみる。
「ん、1Hzぐらいずれてるところがいくつかあるけど……今度なおそうかな」
調律したの半年ほど前だったから狂い始めるのも無理もないか。そう思いながら椅子に浅く腰かける。
「スーッ」
長めに吸った呼吸を合図とし2時間ほど引き続けた。
「最近他の楽器ばかり引いててピアノにほとんど触れてなかったから鈍ったかな。2時間引き続けただけで手が疲れはじめたや」
休憩ついでに昔のことを思い出す。
「確か刹那がよく僕ん家きてピアノ聴いてったっけ」
しばらくすると刹那の叔父がきて剣道の練習をサボって天音の家に来た刹那をこっぴどく叱ってた光景を思いだす。そんな事が何回もあったなとクスクスと笑う。
そんな事を思い出してると少し耳に違和感を感じた。
「あ~っ、あ、あ。あれ、少し曇って聞こえる。気圧のせいかな」
そう思って特に気にせずピアノを引こうとした瞬間。
ザアアアアアアアアアザザッザアアアアアア……!!
「あ゛ぁっ……!」
大音量のノイズが頭の中で響く。
とっさに耳を塞いだが弱くなる気配がない。
脳味噌が揺れ、耳から赤いものがながれる。目は充血していた。
助けを呼ぼうと思い扉に手を伸ばすものの届かず意識を手放した。
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