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異世界から日本に転移した私が空を眺めているとナンパ野郎に絡まれた。よし逃げよう。

作者: 本田 みかん

異世界少女の逃亡。

私の好きなもの。


空。


青い空、曇り空、夕日の赤に染まった空。いろんな表情を見せてくれる空が世界で一番好き。見上げれば、いつも側にいてくれるから寂しくない。


今日も私は空を眺める。いつものお気に入りの場所じゃなくて、浜辺で眺めるのが、今日の気分。


そよそよと前髪を揺らす海風を感じながら見る本日の空は青い。真っ青だ。今日の天気予報によると、雲一つ無い晴天日和。


「青いな青いな、ふんふふーん、お空が青いよ、ふんふふーん」


一昨日までは雨続きだった。しとしとと聞こえる静かな雨音を耳にしながら見る雨空も好きだけど、そろそろ別の表情が見たいと思っていたのだ。数日ぶりにみる青空に気分が上がって思わず即興で作った歌を歌ってしまう。


「君、大丈夫?」


ニョキっと顔が視界の上の方から生えてきた。真っ青な空が背景となって生えてきた顔の輪郭を縁取り、顔の存在を強調してるようだ。それが気に入らない。


「見てわかりません?空を眺めてるんですよ。」


少しだけムッとしたように返事をする。今の私は浜辺に大の字になって寝そべっている。倒れていると誤解されないように、堂々と寝そべっているつもりなのだが、相手には伝わらなかったようだ。なぜだ。


「こんな寒い冬の海辺に人が寝てたから心配したよ。」


どうやら、態度だけでは足りなかったようだ。これからは浜辺で空を眺める時は立て札に「構うな」とでも書いて立てとくか。


「心配して頂きありがとうございます。ですが、これが私の嗜みでして。気にせずそのまま素通りしてくださって構いません。さようなら。」


早くあっちに行け行けアピールを丁寧に混ぜつつ感謝の言葉を伝える。それくらいの良識はあるのだ。


「うわ、驚いた。僕にそんな風に言う人初めてだ。」


なんだなんだ?なかなか視界から顔が消えない上に、視界を閉める顔の割合が大きくなった。どうやら、しゃがみこんで私の顔を覗いてるらしい。大抵の人は「変な子だわ」とか言って立ち去ってくれるのだが、この顔はそうはいかないようだ。こうなったら、もう少しはっきりと伝えるしか無いな。


「空を眺めるのに邪魔なので、その顔引っ込めてくれません?」


どうだ。これで伝わらなかったら最終手段を取るぞ。疲れるし、私にもダメージをいくらか食らうから、あまり使いたく無いがな。


「あははっ辛口だねえ!君、一人?名前は?」


なななんと、この顔はナンパ野郎だったようだ。この類の者は90%が下半身で出来てるとじっちゃんが言っていた・・・残りの10%は顔と言うことか。人では無いな。これはっ食べられる前に最終手段を使うしかあるまい!


「ふんぬ゛!!!」


目の前にある顔のおでこ目掛けて勢いよく自分の上半身を起き上がらせる。


「痛ってえええ!!!」


思惑通り、顔が痛みの声をあげながら悶えるのを後方で感じる。その間に私はじっちゃんの店へと全速力で走り出した。


ジンジンジンジン。


ふっ、どうだ。


ジンジンジンジン。


これぞ、肉を切らせて骨を断つ。


ジンジンジンジン。


私のデコを犠牲に身の安全を確保する。


ジンジンジンジン。

ジンジンジンジン。

ジンジンジンジン。



・・・・ぐすん、おでこ痛い。



後ろで顔が何か私に向かって叫んでいる。私はこの後の予定を考えるのと痛みに耐えるのに忙しくて気にしてる暇など無い。無視だ。


まだ今日の空をじっくりと堪能出来ていないな。じっちゃんの店に着いたら、お気に入りの場所で仕切り直しだ。


じっちゃんの店まで後少し。



 ****



カランコロン


「はっ・・はっ・・・はっ・・・はああああ。すううう。じっちゃあああああん!麦茶飲むねええええ!」


着いた。店のドアを開け中に入り、じっちゃんにお茶を飲むと伝える。じっちゃんは店にいないが、それでも一応一言添える。勝手に飲まない辺り、やはり私は良識がある。


おでこの痛みは若干おさまっていたので、先にダウンジャケットを脱いで、服にくまなく貼ってあるカイロを両手で一気に剥がす。冬の浜辺で空を眺めるのだ。防寒対策に抜かりは無い。寒さで風邪を引いて寝込んで空を眺められなくなるなんて、本末転倒。何より、そんな自分が恥ずかしい。

今は全速力で走ったためとても暑い。汗もぐっしょりかいてしまった。汗冷えで風邪を引かない様にハンカチで軽く首などを拭ってから麦茶を一気に飲む。


カランコロン


お客さんかな?今日は定休日でCLOSEDの札がかかっているはずなのだが。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」


ドアの方を見ると、自分と同じくらいの少年が、はぁはぁ言いながら私を見ていた。興奮しているのか、汗をかいている顔は赤くなっていてーー特におでこーー、何より目が怖い。私はこの目を知ってるぞ。この前の動物のドキュメンタリー番組で豹が獲物を追いかけている時にしていた目だ。


「今日は定休日ですので、日を改めてお越しください。」


なんだこの異常な少年は。絶対に関わりたく無い。この無難な客対応はじっちゃんの真似だ。


「僕もっ、はぁはぁ、お茶をっ、はぁっ」


少年が着ていたコートを脱ぎ出した。

仕方がない、ここは言う通りにしよう。そして丁重にお帰り願うのだ。


「どうぞ。」


新しいコップに麦茶を入れる。夏は麦茶派!とよく来るお客さんが言っていたが、私は断然、年中無休麦茶派だ。


「んっ、はああああ。はぁ、もう一杯。」


この少年は図々しいな。定休日で開いていない店に上がり込んでお茶を要求するとは。良識のある私には到底真似できない。しようとも思わないが。ブツブツ文句を心の中でつぶやきながらもコップに麦茶をつぐ。


「んっ、はあああ!生き返る!こんなに必死に走ったの初めてだよ。君、足速すぎ。」


とても良い笑顔ですが、少年よ。聞き捨てならないことをおっしゃいますな。


「もしかして・・・あなたは先程の顔・・・ですか?」


「先程の顔ってどんな顔?」


「さぁ、よく見てないので覚えてないです。先程、浜辺で私が空を眺めて楽しんでいたのに、いきなり私の視界を顔で埋め尽くした人がいたんですよ。しかも、それが実は『ナンパ野郎』だったみたいで、自分のおでこを犠牲に逃げてきたところなんです。」


少年に事のあらましを伝える。その時のことを思い出して、また腹が立った。


「・・・・・そう・・なんだ。それは災難だったね。僕はその人では無いみたい。たまたま必死に走ってたら、君がすごい速さで喫茶店に入って行くのが見えたんだ。思わず追いかけてしまったよ。でも女の子が一人で海辺に行くのは危ないよ?次に行くときは誰かに着いてきてもらった方がいいね。また変な人に絡まれたくでしょ?」


「ふむ。それは後で対策を立てることにします。先程の顔は私の予想だと、体の90%が下半身で残りの10%が顔面の『ナンパ野郎』と言う人外だと思うのです。あなたでは無いだろうなぁとは思ってたのですが、擬態してる可能性は捨て切れません。念の為に確認しました。『ナンパ野郎』は主に夏の海辺で活動するそうです。偶にですが冬でもこの辺りに出ると、じっちゃんが言ってました。遭遇するのは初めてですね。」


「ハハハハハハハハハハ、ここはそんな生き物がうろつくんだね。僕も気をつけるよ。」


どうやら、この少年。図々しくて異常なだけあって、笑い方がど下手だ。愛想笑いにしたって、こんなカタカナの「ハ」の文字を連ねただけの笑い方は初めて聞く。


「それより、ありがとう。麦茶、とても美味しかった。」


なんだその微笑みは。少年の顔から、この前じっちゃんが買って来たLED電球並の輝きが放たれる。眩しすぎて思わず顔を背けて眉間にしわをよせ、半目になってしまった。いけないいけない。どんなに図々しくて異常な少年でも、もしかしたら次回も来てくれるかもしれないお客さんだ。失礼の無いようにしなくては。


「お気に召された様で、よかったです。当店自慢の麦茶になります。もっと召し上がられたければ、後日はお金を持ってお越しください。」


じっちゃんがよくする客向けスマイル付きで、丁寧な言葉を使って帰って欲しいと伝える。ふふふ、どうだ。この私にかかれば、接客もお手の物さ。


「あははははっ、こんなに失礼な対応は初めてだよ!君面白すぎ!」


どういうことだ。今の接客が失礼だと。しかも笑われてしまった!少年こそ失礼だ。少年の評価に『失礼』も加えてやる。というか、きちんと笑えたんだな。


「ははははははっ、はあああ。笑った笑った。僕、君のことがもっと知りたくなったよ。名前を聞いてもいいかな?」


笑顔で少年が聞いてくる。この笑顔は直視できる方だ。それよりも・・・この場合はどうしたらいいのだろうか。少年は私について知りたいようだが・・・なぜ?・・・まさか私の正体に気づいたとか?・・・・いやそんなはずはない。出会ってまだ数分だ。教えたら帰ってくれるのかな。名前はじっちゃんがつけてくれた方を伝えるとして、私の素性は・・・トンチンカンで駄目だ。教えられない。じっちゃんと血が繋がっている訳でもないし、言ったら言ったで冗談として流されるか、頭おかしい人と思われるかだ。もう関わりたくないな。名前だけ言って、退散しよう。


「道奈です。どうも。そして、さようなら。」


店の奥に行こうとすると、腕を掴まれて引き止められる。もっと俊敏に動くべきだった。


「いやいや、勝手に行かないでよ。僕の名前は知りたく無いの?」


「いえ特に。」


「僕は創也。林道創也(りんどうそうや)だ。また明日来るね。その時ゆっくりお話しよう。」


『人の話を聞かない』も少年の評価加えてやる。これで、お前は図々しくて失礼で人の話を聞かない異常な少年だ。お前の話も聞いてやるもんか!そんなやつは将来大人になって苦労するがいい!私は掴まれた腕を振り離し、店の奥へと逃げ込んだ。


カランコロン


ドアが開く音が聞こえる。どうやら、少年は速やかに帰ってくれたらしい。


なんて日だ。おちおち空も眺められやしない。当分浜辺に行くのは控えよう。

ナンパ野郎の対策もいるしな。


とりあえず、



ーーーー空でも眺めるか。


少年の中で少女の好感度が上がれば上がるほど、

少女の中の少年がひどいことになる図。


初投稿になります。

書いていてとても楽しかったです。

ここまで読んで頂きありがとうございました。

本当に楽しかったので、少年視点も加えて連載版も書こうか悩んでおります。


誤字脱字などありましたら、おしらせください。できる限りなおしますm(_ _)m

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