8話 「自分が思うように・・・」
※
おぅ・・・・・・・・・
さっきからぶつぶつ声が聞こえるけれども・・・・・・・・・聞いたことあるなぁ・・・・・・・・・
ただ今あたしこと西条愛華は町の図書館にある自習スペースにて過去の新聞記事をしらみつぶしに読んでいる。というのもまあ、昨日の昼に真昼さんから届いたメールに書いてあった日付の新聞記事を調べようにも肝心の内容が一切合切書かれていなかったのだ。
おかげで昨日半日使っても結局見つけられなかったし、いまだに探し続けているわけなんだけれど。
昨日の昼方にちょっとひと悶着あった建宮恵の声が前の方から聞こえてきている。
なんで・・・・うん、え?なんで!?
これ絶対真昼さんの仕業よね。
なんであのタイミングであんなメールが送られてきたのは確かに謎だったけど。それがもともと送るつもりだったものなのならうなずけるって納得してた。
あれに意味があって、あたしたちを同じ場所に来させるためのものだとして、確かにそれも納得できる。
というか一番この状況を説明するのにちょうどいい材料になる。
ただ、そうなると真昼さんのメールが送られてきたタイミングが不快。
すごい(変な)人だっていうのは一度話しただけでもよくわかったから、それで納得ができないでもない。
ないけど・・・・・・・うーん、まぁいっか。考えたってわからないだろうし。
明らかにあの人はあたしと別次元で生きている気がする。
だからあたしにとって不可思議なことでももしかしたらあの人にとっては別なのかもしれないしなぁ。
考えたってわからないものを考えてもしょうがないか。なんにせよ、今あたしの前には複数の選択肢が提示されている。このまま何もせずに新聞を読み進めるか。向こうに気づかれる前にこの場を立ち去るか。
はたまたこっちから彼女に話しかけるか。
うん、あたしにできることなんて決まっているしなぁ。
そういう訳であたしにとってはあってなあいような選択肢だとも思うのだ。
そう思いながらあたしはなるべく音をたてないように、もうほとんど読む気力のなくなった新聞を横目に席をたった。
声、ちゃんと出るかな。
恵の座っている
「ねえ、建宮恵さーん」
出た。しかもなんかすごい他人行儀な・・・・・・・
あたしはなんでこういう時に限ってうまく体が動いてくれないのか、まったくもう。
「ふにゃぁっ!?」
びくぅっと体を震え上がらせた恵の体が、座っている椅子から若干浮いた。
・・・・・・・・?今なんか変な声が
「えっ!?あっ愛華!!?」
大分動揺してるようだけど、すごい集中してたのかな?それならあの驚き様にも納得・・・・
「えっ!?あっ、あうっ!?ちょっ新聞落ちっあっあっ、わっ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・ドジっ娘かなにか?
「あー・・・なんかごめん。ここだとほら、あれだし迷惑になるかもだし、あっちの喫茶店にでも行こう?」
手を差し出すと恵はうつむいたまま何も言わずにその手を取った。
※
誰もいない図書館の喫茶店スペースにて。
今あたしの目の前には恵が申し訳なさそうな顔でうつむいて座っている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」
ああっ、沈黙がつらいっ・・・・・・・
我ながら本当にまぁ面倒くさい性格をしているとは思うし、回りくどい事が苦手で直球が好きなのが回り回って面倒くさい性格なんて全く皮肉もいいとこだわ。
さて、呼び止めてしまったのはいいけれど、これからどうしようか。別に何の考えも無しに声をかけてあげくその場からいなくなろうとした恵を引き留めた訳ではないんだけどね?いざ話そうってなると頭の中が真っ白になるこの状況。
分かってほしい。切実に。
誰に分かってほしいというのかあたしは・・・・・・・
ああっもう、よけい混乱してきたし!
「・・・・・・・・ごめん」
「えっ?」
頭をわしゃわしゃしていたら意外にも恵のほうから声をかけてきた。
しかも謝罪だと・・・・・
「なんで恵が謝るのよ、あたしが言わない世話を焼かなければ、」
「ううん、ちがうの。私がそもそも自滅しただけの話だから」
自滅ねぇ、
「・・・・・巻き込むのが嫌だって思ったの」
「巻き込むって誰が誰をなにによ」
いや、大体の見当はつくし、その気持ちはわかるんだけどね。
「私が愛華を・・・・・なんというか、私事によ」
「そんなこと、」
「いままで私は、周りの人たちを不幸にしてきたから。大切な人もそうじゃない人もみんな」
「だからあたしのことも、って思ったわけだ」
なんともまぁ・・・この子もあたしも。
「それで、トラウマというか、変なことを思い出してしまって。というか、思い出せなくて、つい」
つい、あんなことを言ってしまったと。
分からなくもない。というかよくわかる気がする。混乱して、その挙句自分が何するのかも分からない恐怖を、種類は違えどあたしはちゃんと知っている。
だからこそ私が言うべき言葉は決まっているだろう。
「ばーか。」
「ふぇっ!?」
「何のためにあたしが自分の過去を離したと思ってるのよ。あたしには失いたくない過去なんてものはそんざいしないんだからさ」
「・・・・・・・・・・・」
うん、今決めた。
「ねぇ、あたしでよければトラウマってやつ、話してくれないかな。」
あたしはこれからこの子のために行動する。
精一杯同情してやる。
二年弱、決まらなかったあたしの初"するべきこと"は、恵に寄り添うことに決まった。
一人でさみしい思いなんてさせてやるもんか。何が何でもあたしに頼らせてやる。
これが最終的に"あたしのため"になる理由も、もう隠すもんか。
あたし恵が好きなんだわ。
そう、一目惚れだ。同情心が招いた甘えだ。
でもだからどうした。
好きだってことに理由なんているか、その人のために何かをすることが自分のためになることに理由なんていらない。
恵の話を聞き終わったらこのことを本人に伝えよう。どんな反応をするのかを考えるのは怖いけれど。
この気持ちは伝えないといけないって、そう思うんだ。
「・・・・・・・うん。」
そういって、恵はつい半年前のことを話し始めた。
※
値段に見合わないコーヒーを「あっ、やっぱり紅茶頼めばよかったかもなぁ」とか思いながら飲み干す。
なんで紅茶好きなあたしがコーヒーを買ったのか。あたしにもよくわからないままだ。大体コーヒーって苦すぎる気がするんだよ。あまりに濃すぎるものを飲むとなんか気持ち悪くなるし。実用性を重視しているのかどうなのかわからないけれど、紅茶みたいにすっきりする香りもあったっていいんじゃないかなぁって。そう思うのよ。本当に、あんなに苦くする必要なんて
「しるかぁぁぁぁぁぁ!じゃあなんでコーヒー頼んで飲み干してるのよ!紅茶にすればよかったじゃないの!!!」
「ちょ恵、いくらカフェスペースだからってここは図書館なんだから声は抑えなって」
まったく、いっつもリアクションがでかいんだから・・・。
「まあ、ボケがいがあるからいいけど」
「・・・・・・・・ボケかましてる自覚はあるのね」
まあね。
「うーん・・・一つ聞きたいことが」
「なに?」
この質問の返答によって事の重大さ、つまるところ取り返しのつかなさが変わってくるだろう。
「その先輩は今どうなってるの?」
もし、その先輩が屋上から身を投げた後、死亡していたのなら。
今ここに恵はおらず、もっと強い自責の念で今とは違うものにとらわれていたであろうと思う。
それに、恵なら死んだ事実があるならきっと「死んでしまった」と明確に事実を口にするだろう。
たとえあって間もないとはいえ、彼女の個性の強い性格を知っていれば断言できる。
恵ならそう明言する。してしまう。
だから。逆説的に彼女の元彼氏であるところの先輩はまだ存命だ。
ただ、生きていたとしてもそれは・・・
「・・・・・・・・・・・その街の病院にいるわ。たぶん意識不明な状態がずっと続いてる。と、思う」
「意識、不明」
「落ちて生きているのが不思議な状態だから奇跡的だのなんだのってお医者さんは言ってた」
「、でもそれは」
「そう。」
そう、むしろ生きていたとしたって、その本人に謝ることさえ出来ないから。
余計この子は自分が招いた現実に、ずっと縛られ続けているのか。
「なんとなくね、わかるんだ。先輩がっ・・・・・・その時に亡くなっていたら、自分は変わらなかっただろうって」
うつむいて、息苦しそうに恵は続ける。
「なんで分かるのかは、わからないんだけど。なんとなく推測できるの」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
突飛な話ではあるけれど、違和感はない。そもそもの彼女自身の異常さに隠れているというか、異常?隠れているというよりも、それ自体がその異常さを感じる要因?恵が話してくれた内容でもあったけれど"正しく"あろうと考えて動いているというよりもむしろ取れる限りの最大値を選んで取っているような。
それこそ違和感を覚えるけれど。
「ねえ、恵。見たところあなたも新聞記事を調べていたみたいだけど、どうして?」
「え・・・・?あなたもって、愛華もそうなの?」
恵はスマホを取り出して中身を確認しながらあたしの疑問に答える。
「うん。真昼さんからメールをもらって。2004年と半年前のある記事を見ろってメール」
2004年っていうと12年前くらい。またずいぶんとドンと大雑把な情報だけを渡されたものだよね。
「私も、2004年だけだけど置手紙で真昼おばさんから・・・愛華メアドまで交換してたの????」
「いや、そんな覚えは一切ないんだけどね」
あたしがそういうと、どうやら思い当たる節があるのか、そういう人だと理解しているのかどうなのか飲み込んでくれたようだ。
「ううむ」
唸る。わからん。というか思考が全然まとまらないなぁ、こういう時は総当たりしてみる。
「?」
恵にはトラウマがあって、それは半年前に起こった出来事。
時期的にも真昼さんはそれをあたしにしらべさせようとしていて、その先輩さんは今昏睡状態。
恵から聞いた話から分かるのは、あたしから見れば今も昔も行動に違和感があること。
ただ・・・その違和感は"恵だから"感じるものじゃなくって、その行動自体に違和感を感じるのか。
「ねぇ、どうしたの」
その行動の原理は・・・・?どこからきている?
行動というよりも心情、かな、何をどうするかって決める原理。
それが、彼女を縛る要因の一つか。本人までもそれに踊らされているわけで、
どこから・・・
「待てよ」
「んっ!?」
昨日、恵が唸っていた時にぶつぶつ言っていった言葉の中に親がどうとか言っていたような。
それに対して苦悩しているようにも見えたような、まるであたしの発作みたいに。
2004年、約12年前、ということは5、6歳か。
そうか、だから真昼さんはあたし達に記事を。
その上でめぐり合わせた。今のこの状況を作るために。
「恵」
「・・・・・・・・なに?」
立ち上がって恵にひと声かけてから、有無を言わせずに手を取って、強引に引く。
「ちょっ、んな、なっ、どどどどうしどこいくの?」
おどろいているのかあまり上手く言葉がでないようだ。
「学校にね、ちょっと。合わせておきたい人がいるんだ」
嘘。これは口実だ。正直あまりあのエセお嬢様生徒会長に恵を合わせるのはなんとなく嫌だ。
いや、もしかしたら取られちゃうかもとか思ってねぇし!ちげぇし!
「げふんふげふん」
「・・・・・・ちょ、どうしたのよ」
ともかく。
告白する前に振られるのは嫌だし・・・・・・・・・
「じゃなくって!」
「?・・・??」
とりあえずあたしは真昼さんに聞く事がある。恐らく、この問題を追及していけばきっと解決するのだろう。
そうなるよう、真昼さんの計算の上で行動させられているのだろう。だけれども、この解決方法は痛みを伴うであろうことが昨日証明されているし、思い出せないことを連想させられるときの痛みはあたしが一番知っている。
だから、そんな方法はとらせない。絶対に。
それならば、あたしは本人に聞くことにした。全部知ってるあの人に、直接。聞き出してやる。
ただ、この子を連れて行くのはまた手玉に取られそうでならないから、学校に置いておくことにした。
あのエセ以下略に預けるのは二度言うが、あまり乗り気はしない。しないが、残念ながらそこしかあの人の介入を防げるであろうところをあたしは知らないわけで。
今日は土曜日だが、午前中はいるって昨日聞いたし、まあ迷惑は考えなくてもいいよね。見ててもらうだけだし。
「いきなりごめんね。でも、あたしがきっとどうにかしてみせるから」
根拠はないけど。
「どうにかって・・・・いや・・・・・分かったよ、、、ありがと」
そういってだまって手を引かれててくれる恵。こういうときは便利なんだけど、伝わるというか、勝手に理解してくれるっていうか。こういう引っかかりが、違和感そのものなんだよなぁ、いいのか悪いのか。
いや、悪い。それがどれだけ最適解を叩きだすものだとして、それで幸せになれるわけがないんだ。
本人のことなのだから本人が自分で向き合わなければいけないと言われてしまえば、何も言えないけれど。
正論は時として正論にはならないってこと、なのかなぁ。
今は、自分にできることを・・・・・・・いや、違うか。
今、自分がどうしようもなくしたいことを。しよう。