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誰かにとって大切なモノの形  作者: 木伸三 他ト
たとえ何もなしえなかったとしても
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7話 「反省と、切り替え」

思い出したくない、逃げ出したいなんて、そんな記憶一つくらいあるだろう。そして人はそういう記憶をいい具合に忘れていけるものだと思っている。


基本的に、人間はそうやっていい感じに責任を放棄できるようにできているものだと。


けれど、どうやら私はそういうことが苦手なようだ。


半年前、まあたかが半年前とは言えど、あの時の光景は全部。余すところなく覚えている。自分がやられていたこと、やってきたこと、させてしまったことも。全部。目をつむればすぐに思い出せる。そのことに対する自分への反省も言い訳も。


なにか、考え続けて自分を戒め続けていないといけないような気がしてならない。


そうあるべきだと、むしろそうでなければいけないというような確信がある。こんな思考は何でもできた時からあった。あったとも。何か使命に近いような何かが。なんでそんなことを思うのかもわからないままに、それが私だと信じ切っていた。


それすらも何か強制めいた意志で、考えていたような気がする。


そう、私の思考を具体的に言葉に表してみると、またなんともひねくれている。

なんでそんなことができるのかと思うかもしれないけれど、これはあくまでも感覚だから。


それで、

「成せばなるなら成せなければならない」

こうなる訳だ。


何でもできた時の私は気にもかけなかったことだし、劣化している今だから気づけたこと。


自己分析なんてする必要がないと思っていたのか、それとも自分を正当化しようとする故に考えないようにしていたのか。どちらにしろ、自分の完璧さを追い求めた結果、本人は自分のことも満足に理解できないような人間が出来上がっていたなんて。


なんとも皮肉なことだと思う。


そう考えると私の現状はさほど悪い傾向ではないのではないかとも思える。思えるけれども、真昼おばさんに迷惑をかけていることは避けられない現実としてそこに腰を据えている。

あの人は「身内なんだからそんなの気にしないの」とか言ってくれてはいるけれど、私の心中はそう簡単には納得しない。

そこで納得出来たらどれだけいいか。誰かに迷惑をかけているというだけで悶々としてしまう。


こうした訳で。

どうしても完璧でありたいという自分の信念は今も昔も変わらず心の中にあり続けている。


図書館までの道をただひたすらに歩くこと15分。


前半は狂った生活リズムのせいでふらふらと半ば記憶無しに歩いていたが、環境音が心地よく全体的に静かなこと(たぶん平日の真昼間だからだと思うが)も相まって後半になると目も覚め、いつもの自問自答をもんもんと考えながら進んだ。


その結果なのか、実際の時間よりも短い時間でついたように感じている。

正面の自動ドアをくぐり、視界に移りこんだカウンターを目指して歩く。

全体的に木造のように見えるが、ここはおそらく鉄骨中心のごくごく現代的な建物だろう。

木を使っているように見せるために、はめ込めるところには実際に木材を使って雰囲気を出しているっぽい。


こういう雰囲気は割と好きな方。でも私自身あまり本は読むわけでもないし、読むのなら買ってしまいたい症候群に駆られているわけなので、好きと言ってもあくまで感覚の話だったりする。


カウンターには2人の受付さんがいる。


「あの、新聞の過去記事を見たいのですが」


声がでた。

知らない人に話しかけるのはすごい久しぶりだったから心配だったけどその心配はわりと無用だったらしい。あ、いや、それを言ったら愛華だって知らない人の部類に入りそうなのだけれど。


「は、はい。えっと、まずはそこの階段から二階に上がっていただいて、

 右手に見えるタッチパネル式の機器で新聞の項目を選択したら、後は表示される指示に従ってください。」

「?・・・・・ありがとうございました」


なぜか少しだけ驚いた顔をするも受付のお姉さんは丁寧な説明をしてくれた。


そして私の反応に気づいてこんなことを言ってきた。

「すみません、新聞の過去記事を見たいと伺ったのが二度目だったもので驚いてしまって・・その上年齢も同じくらいだったので」


二度目?確かにまだこんな時間帯でしかも平日に二人も来るなんて珍しそうである。


まだ陽は真上に達してはいない。10時ほどである。

その後ちょっと話して分かった事なのだが、実は昨日その人が聞いてきた事らしく、今日もすでに来ているのだとか。


それで変に驚いたらしい。


二日連続で新聞の過去記事を見に来るなんて物好きな高校生もいたものだ。というか。それを言ってしまったら、私もどうせ今日中に見つけられなかったら明日も来る予定だから人のこと言えないんだけどね。


「いや、まあ見つけるけど。見つかるだろうし、それなら見つけなきゃ」


ゆっくりと階段を上がる。

この時、不意に口に出した言葉が。私が本質から何も変われてないことを明確に示している事に、私は気づくことが出来なかった。


受付のお姉さんの言った通りに機械を操作して新聞を手に入れる。ここは二階。印刷されるのを待っている間に一階を見下ろす。


平日だからなのか、それともいつもこうなのかは分からないけれど、ぽつぽつとしか人が見かけられない。そのなかで、新聞のコピーらしきものを読んでいる人が一人いた。あれがさっき受けつけのお姉さんが言っていた人だろうな。

女の子だ。たぶん同い年くらいの。


1枚目が印刷される。


真昼おばさんの置き手紙には具体的な内容と新聞社はかかれていなかった。こうなるとどの新聞のどのところを参照したらいいのかは全くもって分からないけれど・・・


2枚目が印刷される。


「いつ」は指定されているから、そのときに起こったニュースなのだろうし。真昼おばさんが詳しい内容を指定しなかったのは「誰でもすぐに分かるから」なのか、「あまり教えたくはないから」なのか、はてさて、「恵ちゃんなら、分かるから」なのか。


4枚目が印刷される。


たぶんだ。これは憶測だし、むしろ自分的には当たって欲しくないただの妄想だ。真昼おばさんさんが提示してきた記事、その内容をみることでこの自分のルーツを知ることができるんじゃないだろうか。

こうなると、本格的に知りたくない。でも知らなきゃいけない。知ることができるのなら知らなければいけない。

やはり私はここまできてもそう考える。何かの呪いのように。


7枚目が印刷される。


自分の異常性を知りたいと思う原動力が自分の異常さそのものだなんて、さすがに滑稽に思えてくる。

知りたくない、という怠惰な自分をとがめるかのようにこの義務感は私の中で熱さを増していく。

「できるはず」のなことを私は、私がしないことを許さない。


9枚目が印刷される。


頭を抱える。ずっと、今までずっとそうだった。気付かなかった。それが普通だと、それこそ、そう思うことすら「できるはず」なことに含まれていたような気がする。だからこそ、何でもできた。できることなら何でもできた。

まぁ、料理はできないことだったけれど。

ふと、自分の異常性(これ)は超常的な何かなのではないかと最近、この半年だが、思うようになっった。


12枚目が印刷される。


あり得ないことだとはわかりきっている。でも、そう思いたい気持ちは確かにあるわけで。


ああ、もう。


こういう思考に逃げないとやっていけそうにない自分がいるんだって事実も憎たらしいものだと・・・・やめよう。これ以上は堂々巡りになりそうだ。そう考えるとやはり自分はなにも進展してないようだ。

半年間ずっと同じところをぐるぐるぐるぐる思考し続けて、自分を戒めては、その現状を好ましく思い。そうやって矛盾だらけになっていった。

さて、今はどうだろう。

私は、


ガゴン、とひときわ大きな音が図書館に響き渡った。どうやら最後の1ページが印刷されたらしい。


・・・・・ここで考えていたってしょうがない。

そう自分に言い聞かせながらコピーの束を片手に、再び階段を下りる。差し込む陽の光で、この図書館にはさっき見かけた子しか居ない事がわかった。


席に着いて記事をおく。わかったことが一つ。


日にちを指定されたところでどの新聞のどの場所をみればいいのかなんてそう簡単には当てがつかない。


けれども、あのメモに書いてあったのは新聞の日にちだけだ。だけというのは語弊があるのかもしれないけれど、新聞記事に関して言えばそれだけだったから間違いではないはず。その他はまぁ、今考えるべきではないことだし。


明確な言及は避けるけど、真昼さんは同姓同士の恋愛が実るとでも考えているのだろうか?いやまあ、私は・・・・


ああ、本当にもう考えるのはよそう、どっと疲れるだけだ。


そもそも、あんな態度をとっておいて、また彼女と会えるだなんて期待する方がどうかしている。


・・・・・記事探しに集中しよう。


大量の情報から多少のヒントしか与えられていないものを探し出すには。

当たり前のことだけれど、絞り込みを行うことが第一だ。


そのためにはまず(・・・・・・・・)全体をみる(・・・・・)

全体をくまなく情報として頭に取り入れ記憶し、ページの端から端までを、イメージとして取り込む。


そうしたら目を閉じて、欲しい情報のキーワードをその中から抽出する。

これで、"見なければならない部分"がハッキリと確定する。それから、その部分を詳しく読んでいけば、わりと簡単に見つかる。


こうすれば、何もしないよりも簡単に目的のものを探すことができる。いつぞやになんとなく思いついた方法だけれど割と便利だったりするからたまに使っている。


世に聞く完全記憶能力とかでもあれば見たものを思い出す段階で事が終わってるだろうし、そういうものに比べたらまだまだ手間も時間も無駄にかかっているんだろうけれど。


まあ、私にできるのはせいぜいこのぐらいだ。


「できる、できる、できるねぇ・・・・」


つい声が出てしまうが、この三文字はいったいどこまで私にまとわりついてくるのか。

日にちだけが書かれたメモ・・・・・それだけならば探すのは難しいはず・・・・・そしてなかなか考えていることが読めない真昼さん。・・・・・・・まさかね。


何かあるのだとしても、私の一つの嫌な予感が当たりなのだとしてもまぁ、知りたいとは思わない。


「うーーーーん、あぁ、これと、これとこれかな」


目を通した記事の中からそれらしい記事の書かれた数枚を記事の中から見つけ出す。

交通事故、誘拐事件、殺人未遂、一家心中未遂・・・・・・・・

おどろおどろしいな、それにしたってまったくもう。


これのどれかの中に、私と私の両親に関わる(・・・・・・・・・・)ことが載っている(・・・・・・・・)


もちろんこの時の私は自分のやっている事がいかにおかしい事なのか、なんでそこまで鮮明に思考が進むのかいまだにわかっていなかった。出来ると思えばできる。それがどれだけ変なのか、おかしいのか、それがどれほどの規模で現れるのか。

知りたくないと思っていたからでもあるのだけれど。ふつうは気づかない事でもある訳だし。


あと、この時点で気づいてない事がもう2つ。


私以外に新聞記事を持ち出していたもう一人、その人がかなり近くで同じように記事と格闘していたこと。


その人の名前は西条 愛華(さいじょう あいか)だって事。

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