もうすぐクリスマス
12月に入ると、とたんに町はクリスマス一色になる。なーにがクリスマスだ!だいたいクリスチャンでもあるまいに、盛り上がりやがって。
知ってるぞ、こういうの商店が仕掛けてんだろ?買い物してくださ~い、ってさ。
だがな、お生憎。俺にはクリスマスなんて関係ないね!だいたい、俺んちは無宗教だっちゅーの。俺が子どものころだって、親父に何て言われたことか。
『父ちゃん、クリスマスプレゼントにあのゲームが欲しい!』と俺がねだれば、
『ウチは浄土真宗だ。クリスマスは関係ない』っつって、跳ね返されたもんだよ。
それでも母ちゃんは、俺のこと不憫に思ったんだろうな。クリスマスの次の日、起きたら、枕元にコロコロコミックが置いてあったよ。しかもむき出し。
母ちゃん!なんで、次の日なんだよ!?なんでコロコロコミックなんだよ!?
気持ちはありがたいけどよぉ、夢とか・・・あんだよ、ガキにゃーよぉ!
ああ、ちょっと思い出しただけでも、不憫な俺だぜ。
それなのに、ちょっと買い物に出たら、コレだよ。モールの外からもう、イルミネーションがばっちりで、店内はキラキラすぎて何を見たら良いのかわかりゃしない。あっちを見ても、こっちを見ても、クリスマスプレゼントの山。いや、これは売り物じゃなくて飾りだな?でも、こうやってプレゼントが積んであると、なんだか空しくなるぜ。もー、だって下手すりゃイチゴにもリボンかかってんだぜ?イチゴって食材じゃないかよ!なんで誰も突っ込まねぇんだよ!
あー、また思い出した。クリスマスイブの夕飯は揚げ出し豆腐と焼き魚だった。そんで、母ちゃんがいきなり張り切って、白玉団子作って、あんこかけて食ったんだ。あー、クリスマスっぽくねぇ!なんで白玉団子なんだよー!みんなケーキ食ってんのに、なんでうちだけ和食っぽいんだよ~!
それにしても、店内放送がクリスマスソングばっかり。しかも知らねぇ外国の曲?じゃねぇな、みんな日本語だ。愛だの恋だの、って普段の曲となーんも変わってねぇじゃねぇか!クリスマスってなんだよ!?キリスト教のお祭りじゃないのか?全然関係ねぇじゃねぇか!クリスマスソングって言ったら、きよしこの夜とかまきびと羊をとか、あーいう、クラシックっぽい、なんつーかもっと静かなヤツじゃねぇの?うるせーんだよ、シャンシャンシャンシャン鳴らしゃいいってもんじゃねー!
ま、どーせウチは一年中父ちゃんが太鼓叩いてるからな。関係ねぇや。いや、誤解のないように言っておくが、父ちゃんは太鼓を生業としてるわけじゃねぇぞ?普通の大工だ。
「パパー、プリンセス可愛いね」
「そうか?」
ほら、ウチの可愛い5歳児を見ろ!こんな年で、もう親の顔見て、クリスマスなんてないって理解してやがる。クリスマスプレゼントに買って♡っておねだりしたりしねぇんだよ。
くぅー、なんて良い子なんだ。かわいすぎだろ。
でも、俺は知ってるぜ。なにせ哀愁ただよう幼少時代を過ごしたからな。親がどんなにウチにはサンタクロースは来ねぇって言ったって、淡い期待をしてるもんだ。親が怖い顔して、ウチは浄土真宗だって言ったって、ケーキ食べたいって思ってるんだ。耶蘇教徒じゃなくたって、こんなに世間様が盛り上がっているのに、俺だけ焼き魚と白玉ってありえねぇだろ。
ああ、寂しかった幼少時代の俺よ、お前が体験してきたことは無駄じゃなかった。今、この最愛の娘を悲しませなくて済むじゃないか。
俺は娘が「可愛い」と言ってじっと見ていた、ぷりんせすとやらのアクセサリーをチラリと見て、脳裏に焼き付けた。これでリサーチ完了だ。あとは娘に気づかれずにコイツを購入しに来ればいい。そして、我が家は無宗教ではあるが、きっとサンタクロースが来るって娘には教えておいてやろう。
俺のような悲しいクリスマスは過ごさせない。俺も立派になったもんだ。それに、俺はあのころは悲しかったけれど、こうして娘のことを考えたり娘の好きな物を知ったりするのは、とても幸せなんだって知った。俺の悲しかったクリスマスは終わった。
娘よ、俺に幸せなクリスマスを教えてくれてありがとう。