交錯した視線 目は見えずとも
ノートパソコンの画面に映る、平たい森の中、私はひとり考え、沈んでいた。
恋愛ってなんだろうか、いや、そもそも、私がしていたのは…そんなことを考えて、誰か助けてほしい、答えを教えて、心の隙間を埋めてほしいって願いながら、ラグナロクオンライン上でチャットのできる部屋を立てていた気がする。どうせ誰も入ってこないだろうけど、やっぱり助けを求めてしまう。さが。
立ててからどれぐらいたっただろうか、それを忘れたころに、ピコーンという、チャットルームへの入室の案内音が鳴った気がした。
冗談だろう。こんなチャットに、と思ったら、本当に入って来てくれている。
マヨイ「さっきからここでこうしてるけどさ、なにがあったの、大丈夫?」
(名前はMMOだから勝手に表示されている、ここでは……そうだね、仮名としてマヨイさんとしておこう)
冷やかしやクリックし間違えての入室でもない、心配の声、私はすぐに感謝のメッセージを返す。
私「あ、いえ、大丈夫、です、ちょっと悲しいことがあっただけで」
マヨイ「大丈夫だったらこんなチャット部屋立てないじゃん、聞かせてみなって」
私「いいの、です?」
画面の前の私は嬉しさで小躍りしてたか、涙を流してたか、今となっては覚えていません、とにもかくにも、救いの天使が来てくれた、それだけでよかったのです。
私「自分昔から奥手で、恋愛とかをまともにしたことなかったんですけど、この前、ゲーム内でしまして」
マヨイ「へー、そういうのもあるんだねえ」
当時はファンタシースターオンラインなどの国産ネットゲームの先駆けはできておりましたが、やはりネットゲーム恋愛は珍しいものなので、こういう反応が普通でした。
私「でも、私が勝手に想いだけ膨らませちゃって暴走して……この前見事に玉砕しまして」
マヨイ「あちゃああ」
私「私、目標とか、見失っちゃって、この先どうすればいいか、わからなくなっちゃいまして」
大学生活は充実してらず、夢といえる夢は情熱で燃えるほどの炎をもって燃えてなく。
マヨイ「そういう時もあるよ。私もさ、高校生だけどさ、今堕胎するかどうかでさ、悩んでてさやっぱり生んであげたいけど……責任とか、そういうのはたせる自信もなくてさ」
現実の私「…………?」
今、堕胎っつったか? いや確かに堕胎って……私の悩みなんてちっぽけすぎてどうでもいいぐらいにヤバイ悩みじゃねえか、今は私のことはどうでもいいからこっちをカバーしなきゃ!
私は、人にやさしくするように、ということだけは、親からか、先生からか、さてはて、自分からか学んでおりました。それだけは自身の存在意義です。
その時はフルに、それが回転しましたね。滅私奉公、とにかく私より彼女だって。
私「なんでそんな大変な時に私の相談相手なんてしてるのさっ」
マヨイ「だって、君も辛そうだから、一緒かなって」
私「重さが違うわ重さが! ともかく君のことを聞かせてよ」
聞けば彼女、同級生としたときにできてしまったらしく、そのことが分かった直後との事、そして、自分の若さや、片親であること、親の足の障害があることを聞かせてくれた。私には恋愛はさっぱりわかないが、責任の重さについての恐怖の理解や、保健体育、道徳の授業の点数は高かった。
マヨイ「どうするべきなんだろ」
という意見に対しても、蛮勇、そして、おそらくは将来的な幸せ、だけを思ってはっきりと答えた。
何も知らないから、答えられた。
私「……将来のことを考えると、産まない方が……いいと思う。でも私個人の意見だから、よく彼氏さんとも話し合って、ね」
マヨイ「んん……わかった……」
窓の外は明るくなっていた、大学の講義もあったが、マヨイさんのことで頭がいっぱいの私にとってはさして睡眠的な問題はなかった。
その次の日だったか、マヨイさんから、おろすことを告げられた。
その選択があっていたのか。
わからない。
だって今では……
それはさておき、マヨイさんと私はラグナロクオンラインの中でよく遊ぶ関係となった。
それはとても心地が良いもので、引っ込みがちな私を引っ張っていくマヨイさんが連れ回すという理想的な間柄であったからだ。今でも理想的な間柄であると信じている。
二人で人を集めてラグナロクオンラインを遊べるギルドというシステムを使って遊ぼうという試みもして
たくさんの知人も増えた、その中には今でもツイッターやSNSで繋がりを保っている人も数多くいる。
私の良いところ、親切なところやおせっかいなところをマヨイは引き出してくれて、たくさんの仲間ができて、ずっとずっと、そんな楽しい時代が続くと、私は信じていました。
でも、時計の針は進んでいって。
シンデレラにかけられた魔法は、いつしか、とけて。




