怪盗千字と天女の涙
この世には、悪人と善人が居る。犯罪者か否か、という訳ではない。表では聖人君主であるかのように振舞う金持ちも、化けの皮を剥がせば鬼畜と云える裏の顔を持っている事もある。
そんな鬼畜の宝を盗み、化けの皮まで剥いでいく正体不明の窃盗犯が居る。
その名も、怪盗千字!
『挑戦状 明日の午前2時丁度、天女の涙を頂く 怪盗千字』
米沢医師の許に届いた予告状は、彼の所有する美しい金剛石『天女の涙』を盗むと云う内容だ。ベルトに手錠をぶら下げた男はそれを確認すると、そのまま机に置いた。
「刑事さん、いや古川警部殿! 天女の涙を必ず護ってください。お願いします。妻が物取りに殺されて、私にはもう、娘と、この天女の涙しか無いのです」
「御任せ下さい、米沢先生。千字は必ず私が捕まえて見せます」
時刻は既に午前1時30分。建物を取り囲むように、40人の警官と金庫部屋の前に6人、そして部屋の中には千字を捕まえると息巻く男と天女の涙をもつ医師、そして米沢の愛娘・香奈枝が金庫を見守っている。
死角のない監視の中、金庫の中身を消すなど、怪盗と言えど只の人間に出来る筈がない。これは完璧な計画だ。古川はそう、高を括っていた。
鼠の足音すら聞こえぬまま、時間は過ぎて行った。
「もうすぐ2時だ。一応金庫の中身を確認しましょう」
「古川警部殿、お願いします」
金庫が開くと、眩い閃光が2人の視界を塞いだ。
「け、警部殿! これは一体!? め、目が……」
暫くの間、身動きが取れずにいたが、次第に眼も慣れ金庫の確認を急ぐ。
「天女の涙が消えている!」
「そんな……まだ2時では無いのに」
落胆する米沢。
「先生、代わりに金庫に、こんな物が有ったのですが、ご説明頂けますか?」
金庫から取り出されたのは、1本のナイフと2通の書類。1通はナイフの血痕が米沢の妻と同一のDNAである事を示す鑑定書。もう1通は、ナイフの指紋が米沢と同一であることを示していた。
「そんな、確かにあれは処分したはず……ハッ!」
「捜査一課の手配をしました。続きは署で担当の者が伺います」
その後、悪徳医師の保険金殺人が大きく報道されたのは云うまでも無い。捜査が進むにつれ、臓器売買の事実も明るみに出た。
「香奈枝さん、これで涙を拭きなさい」
「刑事さん……」
香奈枝は白いハンカチで涙を綺麗に拭い、有難うと云って返した。
「午前2時、天女の涙は頂いた」
計画は完璧だった筈なのに……古川が拘束を解かれたのは朝方の事だった。
千字と決めたのは自分なのですが、いざ書くとなかなか短いもので。描写しきれずの第一弾。上手く伝わるかどうか不安ではありましたが如何でしたか?
字数制限を設けて、面白い小噺を作ってみたいと思い、勢いだけでタイピング。ノリと勢いだけで産まれた怪盗ですが、自分で結構気に入ってます。
また面白そうな思い付きが舞い降りたら、更新していきたいなと思っております。