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コンスタンボアーズの丘で  作者: フリル
スカイバード学院
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スカイバード学院 第1章  始まりの朝

十九歳になった少年エーデルと、黒曜石の瞳を持つ親友との学園生活です。

スカイバード学院での青春は、まだ始まったばかりです。

スカイバード学院 第1章  始まりの朝





 スカイバード学院は、三大有名学院の一つに含まれるとされる、男女共学の全寮制の学校である。

 この学院には多くの謎があるが、その中でも、一番の謎は、厚い雲の上にある、空に浮かぶ学校であるということである。年に数回、陸地に着陸をする。その原理は不明とされている。

 現在では、年に12回、月に1回は、どこかの土地へ着陸をするようになった。そのため、生徒たちは月に一度は、自由時間を与えられ、学園の外へ出ることが許されている。


 スカイバード学院の前身は、王族の城であった。王族の衰退後、未来を生きる若者のために役立つものを作ってほしい、という王の遺言から、現在のスカイバード学院が作られたとされている。















「エーデル。まだか?」

 クラウドは、扉に寄りかかりながら、少年を待っている。返事はない。

 扉を開け、中に入ると、その少年はまだベッドの中だ。

「エーデル。起きろ。朝食、食べられなくなるぞ。」

 エーデルは、その声にやっと目を開け、起き上がった。

「悪い。寝坊だ。」



 二人の少年は、朝食を済ませた後、部屋へ向うために廊下を歩いていた。


 エーデル・クランズリーは、白髪に近い金髪プラチナブロンドに、ブルーグレイの瞳を持つ、十九歳の少年である。端正な顔立ちをし、頭脳においても秀才で、常に学年首位をキープしている。天使のような眩しい笑顔。清々しく、肩で風を切って歩く姿は、歩いた後に、美しい花が咲くのではないかと思うほどである。制服は、いつも正装を決めている。


 美しくアイロンの掛けられたパリッとした白いシャツに、クリーム色のベスト。その上には、グレーのスーツの上下。もちろん、皺一つ無い。胸元には、水色の細いリボンがきちっと結ばれている。足元は、磨かれたカーフの素材で作られたクラッシックな靴。靴とスーツの間から時折覗く、ソックスは、黒と茶のアーガイルである。


 けして、型苦しくならず、そのきっちりとした姿が、彼にはよく似合う。 エーデルは、スカイバード学院の女子の間では、王子と称されてる。



 隣を歩く少年は、親友のクラウドである。彼の顔の輪郭を隠すように、流れる髪は、濡れたような漆黒で、ゆるやかな曲線を画いている。

 その、顔の奥には、黒曜石のような瞳。それは、焦点を捉えることのないような印象を与える。性別を問わない端正な顔立ちをしている彼であるが、その目つきの悪さと漆黒で覆われた容貌が、黒いオーラの放っている。


 さらに、制服のワイシャツはいつも第一ボタンを開け、水色のリボンはゆるく結んでいる。その他の生徒も同じような制服の着こなしだが、彼が着ると不良感が増してしまうのが、不思議である。そのせいか、スカイバード学院一の悪という悪評も聞こえる。


 対照的なこの二人が、親友、ルームメイトであり、ほとんどの時間を一緒に過ごしているという事実に、皆は、傍からみていて、不思議でならない。



 廊下を歩いていた、エーデルが突然振り返った。

「あ、下の売店寄っていい?」

「ああ、いいよ。」

 いつもの如く、クラウドは返事をする。

「三日前から、僕のシャンプー切れているんだよね。」

 彼は、後ろで腕を組みながら、軽快に歩いて行く。


「そう、だからさ、ずっと、クラウドの貸してもらってた、本当、悪いな。」

 思い出したように、そう言い、すまなそうな顔をしてエーデルは振り返った。

「知っていた。やけに、シャンプーの減りが早いと思った。」

 クラウドの仏頂面を、見て、エーデルは思わず噴出した。








 エーデル・クランズリーは、七歳のときに、親許を離れ、この学院に入学した。

 彼は、現在、世界で起きている事実を記すという役割を担ってきた、クランズリー家の一人息子である。


 クランズリー家の祖先は、アルバート・クランズリーという人物であったと伝えられている。彼は、今は無きある国に使える役人だった。すべて覚えてしまうという記憶力の持ち主だったと伝えられている。

 その国では、王の国の歴史の始まりを記した神話、「White  Mythology(ホワイト ミソロジー)」いわゆる、「白い神話」が編纂された。しかし、この神話は、現実よりも空想に近いものだった。

 その後、人々は、真実に相違し偽りを加えている現状に、疑問を持ち始める。そして、人々は、真実を後世に伝えて行くことを思い立つ。一早く、その声を挙げ、実行に移し始めたのが、アルバートだった。彼は、王の国の正しい歴史を記した「Book of Truth(ブック オブ トゥルース)」、いわゆる「真実の書」を編纂した。


 その後、月日は流れ、この国は滅びたが、今でもその歴史は、アルバートの記した、「ブック オブ トゥルース」によって受け継がれている。アルバートの死後、クランズリー家は、真実を記し続けてきた。以前は、一つの国の歴史を記していたが、国の滅びた現在は、国は問わず、この世界に起きている出来事を記す活動をしている。


 大体、この世界の全容が分かってきたが、知られていない地域も多い。この世界には、沢山の謎が残されている。それを見つけ出し、書に書き記すことが、クランズリー家の使命であるのだ。


 そして、現在、その使命を背負っているのが、19歳のエーデル・クランズリーである。








 売店から出てきた二人は、いつもより足取りが軽い。それもそのはず、今日は一時限の授業がないのだ。

「今日は、一時限がないから、ゆっくりできるな。何するかー。」

 エーデルがそう言って、ほくそ笑んだ瞬間だった。突然、後から二人を呼ぶ声がした。

「よお、エーデル、クラウド!」

 アーロン先生である。

「ちょうど良かった。お前ら、今日の一時限ないだろ。ちょっと付き合って欲しいんだが…。中々、美味しい仕事だぞ。」

 先生は、自慢げに二人にウインクをした。

 エーデルは、思わず片手で額を押さえ、クラウドは目を少し細めた。




 コン、コンコン

 二人の部屋を少々乱暴にノックする音がした。

「誰?入って?」

 エーデルは、そう呼びかけると同時に、長身で体格の良い一人の少年が入ってきた。

 親友のブライアンである。彼は、栗色の髪に、同じく栗色の瞳を持つ少年である。

 彼は、勢いよく、二人の前に登場した。

「お、なんだよ。お前ら。朝から飲んでんのか?ホント、悪い奴だな。」

二人の姿を目にすると、そう言った。


 エーデルは、窓際に置かれた、真っ赤な生地で出来た、マホガニーの一人用ソファに足を組んで座り、その片手には、はっか色のスインググラスをもっている。

 同じくクラウドは、隣のソファに腰掛け、グラスを片手にしている。そして、その二人の間にある、同じくマホガニーの艶が美しい上品なカフェテーブルの上には、何本もの瓶が空けられていた。



「まあねって、そんなはずないだろ。さすがに、朝からは、飲まないよ。」

 エーデルが、スインググラスの中の氷をカランと鳴らした。

 クラウドは、テーブルに肘を付き、隣でグラスの中の氷をただ見つめている。


「じゃあ、なんだよ。その瓶はよ。」

 カフェテーブルの上に広げられた、色とりどりの瓶の数々を指差して、言った。


「これは、ジュースさ。さっき、アーロン先生に頼まれたんだ。取引先に渡す土産物を見定めてくれって。」

「なるほどね。でも、いいのか?クランズリー家の跡取りが、そんなむやみに、そんなもん飲んで。毒でも入ってたら、どうすんだよ。」

「止めてくれよ。僕を、王子扱いするのは。自由に欲しい物は欲しいし、飲みたい物は飲みたいんだよ。まあ、これは、頼まれただけだから、飲みたくて飲んでるわけじゃないけどね。」


「別に、王子扱いはしてないがな。」

 すかさず、彼は突っ込みを入れる。

 そんな彼の姿を黙って眺めながら、エーデルは、勢いよくグラスの中身を煽った。

 すると、突然、苦しそうに喉元を押さえた。

「うっ、く、苦しい…ブライアン、助け…」


「おい、冗談は止めろよ。さっきから、ずっと同じもの、飲んでたじゃないか。」

 エーデルは、てへっと、舌を出してみせた。



「ところで、ブライアン、お前は何のよう?」

 突っ立って、話し込んでいるブライアンに、エーデルは尋ねた。

「ああ、シャンプーが切れちまってよ。貸してくれないか?」


 エーデルとクラウドは、思わず顔を見合わせた。


「お前、朝から風呂入るの?」

「いつ入ったって、勝手だろ?」

 彼は平然と言ってのける。


「クラウドでも、いいから、貸してくれ。」

「残念ながら、お前に貸すほど、俺のは残ってない。」

「なんだ。つれねーな。」

「ちょうど、今、エーデルが買ってきたばかりだ。」

 エーデルは、話題が、突然、自分の方へ傾いたことに、噴出しそうになった。

「おい、それ言うなよ。」


「僕、さっき買ってきたばかりだから、貸せないよ。お前、買ってくればいいだろ?」

 ブライアンは、エーデルの手からグラスを奪い取ると、それを一気に飲み干した。

「仕方ない。買ってくるか。」

 そう、肩をすくめてみせた。

 

「そのほうがいい。てか、何勝手に飲んでんだよ、お前。」

 ブライアンは、「またな」と手を振りながら、扉の向こうに消えていった。


「まったく、何なんだよ、あいつ。最初から、買いに行けばいいのに。」

 呆れたように、エーデルは呟いた。


 そして、手元のグラスに瓶の中身を注ぎ、口元に持っていった手をふと止めた。


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