救出作戦
「神山悟は今、異空間にいる」
「え?」
雫はクセっ毛の男の言ったことの意味がよく分からなかった。
「風間翔希には異空間や異世界を創りだし、そこに自由に行き来する能力を持っている。神山悟は今そこにいる」
「私は空気と同化し瞬間移動することが出来るの。だから場所さえ分かれば今すぐにでも神山君を助けに行ける。だけど異空間はどこに存在しているのか分からない」
相川が自分の能力の説明を簡潔に言った。
「私の能力とシノさんの能力を使うことで神山君は助けられる」
相川が続けて言った。
「シノ?」
「私のことよ」
雫が首を傾げていると先ほどの黒髪長髪の美人が優しく微笑み言った。
「シノさんには時間を行き来する能力がある。その力を使って神山悟が飛ばされた時に戻る」
相川が再び言った。
「そこで悟を助けるんだ!?」
うれしくなった雫は大きな声で言った。
「違う。そこじゃない」
「?」
「ここがこの作戦の一番大変なこと」
「私の能力は時間を行き来してる間に本人に見られちゃいけないの」
相川の言葉の補足としてシノが話し始めた。
「だから、私はともかく薫ちゃんはあなたたちには見えなかったかもしれないけどあの場にいたから、薫ちゃんをあの時間に行かすとなると本人に見られちゃうの」
「じ、じゃあ薫さん以外の人を行かせれば?」
「それも無理なの」
相川は首を横に振った。
「これも難しい問題なの」
「?」
「あなたは神山君を飛ばされる前に救うと考えているでしょう?」
シノの問いに雫は首を縦に振った。
「しかしそれだと自力で風間翔希から逃げなければならない。アイツは天才なの。どのような状況であってもすぐに新しい手を打ってくる。さっきはあなただけだったから私の能力で逃げることが出来たけど、人数が増えると体力の消費が激しくなり、もしかしたら逃げ切れないかもしれない」
相川は言った。表情や声からは感情を読み取ることは出来ないが、若干悔しがっているようにも見える。
「じゃあ、作戦って・・・?」
「私たちも神山君と一緒に異空間に飛ばされるの」
「作戦はこうだ」
クセっ毛の男は言い始めた。やはり、この男がリーダーのようだ」
「まず、シノの能力で神山悟が飛ばされる瞬間の時間にピンポイントでタイムワープし神山悟と一緒に異空間に飛ばされる。そして薫の能力で異空間からこの場所に瞬間移動する」
簡単に口にしたがかなり難しいことだ。風間にだけではなくその場にいたとされる相川にも気付かれてはいけないのだから。
しかし、相手が風間と言うかなりの強敵である以上、ただ助けるというのは難しく、最悪この場に雫が存在していないという事になってしまう可能性がある。
つまり、難しいことは同じでも最悪の事態を防げるこの作戦が良いのかもしれない。
「準備は良い?薫ちゃん」
「ばっちりです。いつでも来いって感じです」
「じゃあ・・・行くわよ」
優しい笑みを浮かべながらシノは言った。どうやら相川の緊張を解そうとしているらしい。
他の人には分からないがシノは相川が緊張していると見抜いたらしい。
シノは相川の手を握り、そして消えた。時を遡りはじめた。