生徒会長
時間は十時半を回っていた。
相川が帰った後は食欲などわかなかった。作った目玉焼きに手をつけることは悟も雫もなかった。
「学校・・・行ってみるか?」
相川には学校に来てほしいと言われていた。「後悔はさせない」とも言っていた。悟としては友の言うことを信じて学校に赴きたいところだが、これは悟だけの問題ではない。と言うより雫の問題だ。なので、最終決定は雫に託すことにしたのだ。
「・・・・うん」
数秒考えた後、雫は首肯した。
「大丈夫か?」
「うん」
悟の確認に雫は力強く返事をした。
学校へは十分ほどで到着した。
城聖高校は新設されてまだ十年経っていない。校舎は眩しい白と多く使われている大きな窓ガラスで輝いている。数日ぶりの晴天なのでいつにも増して輝いて眩しく見える。校舎内も吹き抜けになっていて大きな空間に一階から四階まで続く階段が真ん中にある。下駄箱がなく校舎内は土足で行動することになっていて、これらを踏まえると高校の校舎と言うより大学キャンパスに近いかもしれない。
「お~」
雫は大きな口をあけて目を輝かせている。
「どうした?」
「小学校とは全然違う」
「ハ八ッそうだろうな」
思っていたより緊張していない様子の雫を見て、悟はホッとした。
「で、どこ行けばいいの?」
「そうだな・・・どこだろ」
「・・・・」
「とりあえず、教室行ってみるか」
学校のどこに行けばよいのか聞いていなかった。と言うより、言わずに相川は去って行ってしまったので、迷った挙句二人は教室に向かうことにした。
二年生の教室は三階にある。階段を上ったところには大きなスペースがありそこには昼食などが取れるようにテーブルが何個かおいてある。そして、その奥に二年一から六組の教室が並んでいる。
「ん?」
二年二組の教室のドアを開けた時、そこにある人物がいることに悟は気付いた。
「お前は・・・」
「やぁ待ってたよ。神山悟君」
そこにいたのは相川ではなく男子生徒だった。中性的な顔立ちの美少年だが、身長は悟より低くちょっと残念な感じがしなくもない。腕に巻いてある腕章から生徒会の人間であることがわかる。
最初、悟はこの人物が相川の言っていた会わせたい人かと思ったが、男子生徒の獲物を睨んでいるときの蛇のような眼を見て、それは違うと判断し、雫を自分の陰に隠した。
「風間翔希・・・」
悟は男子生徒の名を呼んだ。呼び捨てなのは同学年だからだ。
悟は風間のことが嫌いだ。それは彼が悟の持っていないスター性を持っているからだ。ただの妬みでしかないが、そのスター性で一年の頃から生徒会長を務めている風間のことを好きにはなれなかった。
「おいおい、そんな怖い顔しないでくれるかな。君に危害を加える気はないよ」
「言い換えれば、雫には手を出すってことだろ?」
「さぁどうかな」
笑みを浮かべながら風間は言った。
「あんたにはこの子は渡せられないな」
「まぁそう言わず、僕の言うことを聞いてくれよ。悪いようにはしない」
「生憎、雫を渡すことが俺にとっての悪いことなんでね」
「僕は生徒会長だぞ?」
「関係ないね」
「だろうね。言ってみただけだ。だが、残念だ」
笑みを消し、悟を睨みつけながら風間は、掌を悟の方へ向けてきた。
「君には消えてもらおう」
「・・・・!」
風間の冷たい視線に悟はゾクッと寒気を覚えた。
次の瞬間、その場から悟の姿は消えた。