家族は素晴らしかった
「たっだいま~ん」
玄関の方から高い声が聞こえた。妹の友香が帰ってきたようだ。
その声を聞いても分かるようにいつもかなりテンションが高い。
「雫は静かにしてて」
人差し指を口元に当て「黙ってて」のポーズをしながら雫に言った。
とりあえず、雫を置いてもらえるちゃんとした理由・言い訳を考えてから家族には会わせた方が良いと悟は考えたので、雫には息を潜ましてもらうのだ。
「おにぃちゃ~ん」
「お前が入ってくるのかよ!!」
勢いよくドアを開けて友香は入ってきた。セミロングで艶のある黒髪に大きな目に長いまつ毛、そして女の子らしい小さな体。自称学校で一番の美少女だが、それも十分納得できるほどの美少女だ。つくづく実の妹とは思えない。
そんな美少女の妹友香は見事に悟の考えは打ち破った。
それにちょっとショックを受けた悟は思い切りツッコんでしまった。
「な、なに?おにぃちゃん・・・・って、んん~?」
最初は悟の声に驚きを示した友香だったが、雫を見つけ目つきを変えた。
「な、謎の美少女が!?おにぃちゃんどこから誘拐してきたの!?」
「誰が誘拐するか!」
「・・・・・」
「本気で引くなよ!」
若干涙目になりながらも悟は必死に反論した。
「まぁまぁ冗談だよ~」
「本気で引いてただろ・・・どんだけ演技派だよお前・・・」
ドッと疲れを感じた悟は苦笑いを浮かべながら言った。
「で、その子は?」
「え?」
急に本題に戻ったので悟はドキッとしてしまった。
いったい何と説明したものか。幸いまだ雫が悪魔だとは気付いてないらしい。
「わ、訳あって友達の妹を預かってるとしか言えない」
・・・下手くそ!俺のバカ!
悟はうまい言い訳もできない単純で素直な自分の脳を恨んだ。
「・・・・」
「・・・・」
悟と雫を順に見て友香は何か考える仕草をする。長い間が悟をさらに緊張させ、鼓動もどんどん加速していく。
「な~んだそう言う事か!」
笑顔で友香は言った。疑うことを知らない屈託のない笑顔だ。
「へ?」
間の割にはあっさり納得してくれたので悟は拍子抜けしてしまった。それは雫も同様でキョトンとしている。
「よ~し雫ちゃん一緒にご飯食べよう!」
「え?あ、はい・・・」
「よ~しおかぁ~さ~ん」
叫びながら友香はリビングに向かって走って行った。
「え?おい母さんいるのか?待て!俺から説明するから何も言うな」
悟の叫びは友香には届かなかった・・・
「も~悟ったらこういう事ならちゃんと伝えてよ~」
「あ、ああ」
「そしたらもっとちゃんとしたごはん用意できたのに~」
母の言葉に悟は耳を疑った。
なぜなら、食卓にはしっかり四人家族+一人分の料理が大量に準備されていたからだ。しかもその一つ一つが凝った料理だ。
「いっぱい食べてね~雫ちゃん」
「うん」
最初は緊張していた雫だったが、三日前からちゃんとご飯を食べれてなかったのだろう。今は大量のご飯を頬張っている。
「母さんは友香に何て言われて納得したんだ?」
「え?友達の妹を預かることになったんでしょ?」
「え?それで信じたのかよ!?」
「え?真実じゃないの?」
「え、あ、真実なんだけど・・・普通なんか疑うじゃないけど、俺に詳細を聞いてくるだろ?」
信じてもらえたことはよい事なのだからあまり掘り返さないほうが良いと思ってはいる。思ってはいるのだけれど、少し怖く感じてしまい、思わず訊いてしまった。
「私はあなたを信じてるから」
優しい笑顔で母は言ってきた。
「母さん・・・ありがと」
母の言葉に嬉しくなり、笑顔になりながら悟は言った。
その後は特に母からも何もなく、楽しく食事の時間は過ぎていった。大量にあったご飯やおかずは全て完食された。
一つ悟は気付いた。
・・・普通な俺の家族は普通じゃなかったな・・・・