一人になって、出会った話
それは三日前のことだった。
「あ、あの子はもう殺すしかない」
「そ、そんな」
両親が言い争いをしているのを少女は自室から覗いていた。
「あの子は最悪なんだよ!」
「でも私たちの子供よ・・・」
「ああ、だからこそあの子の力が目覚めた時俺たちが責任を負わされるんだ・・・」
「でも殺すこと・・・」
「じゃあ、君には考えがあるのか?あの子の力を永久的に封印する方法に!」
「・・・・」
父に圧倒されて母はなにも言い返せない様子だ。
そして少女は絶望していた。両親の話を聞く限り
・・・・私は殺される?
少女には自分がなぜ『最悪』と言われているのかさっぱり分からなかった。今まで何も事件を起こしたことなどなかった。自分が悪魔であることが人間にばれたこともないし、ましてやケンカなどもしたことがない。
良い子としての人生を送ってきた少女が『最悪』と呼ばれる理由はどこにも見当たらなかった。
何かの間違いかもしれない。そう思った少女はもう一度ドアの隙間から両親の様子を覗いた。
「ダメ!ダメよ!」
「うるさい!こうするしかないんだ!」
そこには父のことを必死で抑える母の姿があった。
「お母さん!?」
思わず少女は部屋から飛び出してしまった。
「逃げて!」
母が必死の形相で少女に叫んだ。
少女は振り返って部屋に戻った。ベッドに飛び乗り、横にある窓から飛び出した。
「くっ・・・よくも・・・」
父は母を睨みつけた。
「あの子を殺させたりはしない」
「あの子の命を狙っているのは俺だけじゃないんだぞ」
「え?」
父の言葉に母の顔は歪んだ。
「俺も何もなくて実の子を殺そうなんて思わないさ・・・・」
「そんな・・・」
「もうこの世にあの子の居場所はないんだ・・・あの子には幸せのままいてほしかった・・・・眠っているときに苦しまず殺すのが良かったんだ・・・」
父は今にも涙を流しそうに、そして自分の不甲斐なさを悔やむように言った。
「でも・・・いったい誰が?」
「魔王だよ」
父の出した名前に母は恐怖を覚えた。恐怖のあまり声が出ず、そん変わり目から涙が流れ出した。
少女は必死で走っていた。当てもなくただひたすら遠くに逃げた。
大雨が降る夜中と言うこともあり、外には誰もいなく、少女のことを不審に思う人はいなかった。
三日後、少女は心も体も衰退しきっていた。どこかも分からない河川敷のベンチの上で丸くなっていた。
父から逃げて殺されずにすんだのに、結局ここで死ぬんだと思った。
その時。
「大丈夫か?」
声をかけられた。人間の知らない男に。
「それが俺か?」
「うん・・・天使かと思った・・・」
「悪魔が天使って・・・」
苦笑いを浮かべながら悟は言った。
今二人は悟の部屋で向き合って座っている。ちゃんと話を聞くにはこの形が一番いいと判断したのだ。
第一ずっと風呂場の脱衣所にいるわけにもいかないし、リビングに居て家族が帰ってきたとき慌ててしまうのもいけない。結局、悟の部屋に落ち着いたのだ。
「どうしたもんかね」
悟は悩んでいた。
とりあえずこの少女を保護するとして家族にはどう説明するか。そして保護するとしてもずっと置いとくのは難しいだろう。
「とりあえず、ちゃんと自己紹介しよう。俺は神山悟。よろしく」
優しい笑顔で悟は少女に手を差し出しながら言った。
「・・・雫です」
少女も悟が出してきた手を握って言った。
その顔には初めて笑顔があった。