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助けた少女は悪魔の子でした

 神山悟は普通の高校生だ。

 部活動でエースと活躍するような抜群の運動神経も無ければ(だからと言って運動音痴ではない)、学年トップになるような学力も無い(だからと言ってバカではない)。ましてや全校生徒を引っ張るようなリーダースキルやスター性などは皆無に等しい(これに関しては本当にない)。さらにルックスに関しては以前女の子に「良くもなく、悪くもない」と言う、それこそ良くも悪くもない意見を頂いたことがある程度である。

「つまんないな人生」

 悟は呟いた。頬杖を突きながら窓の外の景色を見ていた。

 三日前から降り続けている雨は未だにその強さを維持したまま地面に大きな雨粒を落としている。梅雨の時期はとっくの昔に過ぎて、もう十一月だというのに雨は止む気配がない。

「急にどうしたの?」

 声がする方に振り返るとそこにはクラスメイトの少女が立っていた。

 いつも眠たそうな半眼で無表情。話す言葉にも抑揚がなく感情がこもっていない。中性的な顔立ちでショートカットが似合う美少女なだけに非常に勿体なく感じる。

「なんだ相川?」

 悟は窓の外に視線を戻しながら少女の名前を呼んだ。

「いや別に。なんか意味深なことを言っていたから」

「意味深なんかじゃないさ。ただ、十六歳にしてすでに俺は生きることに飽きたんだよ」

「どういう事?」

 悟が言っていることがいまいち理解できなかったように相川は小首を傾げた。

「普通過ぎて、何もない日常が毎日繰り返すだけだからな」

 そう言って悟は立ち上がった。

「帰るの?」

「ああ、雨が弱くなるのを待とうかと思ったが、この様子だと当分弱まりそうもないからな。ならさっさと帰らしてもらうよ」

 悟はカバンを持ち、歩き出した。

「神山君」

「?」

 相川に呼び止められ悟は歩みを止め、振り返った。

 そこにはいつも無表情の相川が少し心配そうな顔で立っていた。

「きっと・・・神山君にも普通じゃない出来事が起こるよ。だから・・・」

 何かを躊躇うように言葉を止めた。

「何だ?俺が自殺でもするんじゃないかと思ってるのか?」

 相川の様子から考えてることを察した悟は相川が言おうとしていた思われる言葉を代弁した。

「え?」

「つまんないからって辞めようとは思わないよ。思っても出来ない。結局俺はそういう度胸や勇気に関しても普通どまりの人間だからな」

 ・・・つまらないのは俺の人生じゃなくて・・・俺自身なんだろうな・・・

 そんなことを思いながら悟は相川を安心させようと笑顔を見せ、そして教室を出て帰路に着いた。


 家に帰るには河川敷を通る必要があった。

 いつもならグランドで野球やサッカーをする少年たちやランニングをする人々とすれ違ったりするのだが、この雨じゃ普通に歩いている人にすら会わない。今まさに河川敷には悟しかいない状況だ。

 いつも一人で帰ることが多く、人がいてもいなくても同じだと思っていたが、いざいなくなってみると寂しく感じた。

「ある意味これも普通じゃない体験だな」

 フッと笑みを浮かべながら悟は呟いた。

 こんな小さい普通じゃないことに感動してしまうのは、悟が・・・悟の人生が普通過ぎるが故だろう。

「・・・・・ん?」

 しばらく歩いていると、この河川敷で唯一雨宿りできる屋根のある場所に人影を一つ見つけた。

「女の子?」

 そこにいたのは小さい女の子だった。小学三・四年生位だろうか。腰辺りまである長い黒髪に大きな瞳、完成されているような整った顔立ち、しかしその中にも幼さを残している。まるで人形のような女の子だ。

 雨に濡れてかなり体が冷えてしまったのだろう。ベンチの上で丸くなり、震えていた。

 この状況の子を見かけて何もせずに見過ごすなんてマネ普通の人間ならできないだろう。普通の人間の悟はすぐに行動を始めた。カバンの中からタオルを取出し、少女に体を拭かせ、温かい飲み物を与えた。

「大丈夫か?」

「・・・・・」

 黙ったまま少女は頷いた。

「家へ帰れるか?」

「・・・・・」

 少女は黙ったままだ。しかし、今度は頷きもない。

「家の場所が分からないのか?」

「・・・・・」

 今度ははっきりと首を横に振った。つまり家の場所は分かるらしい。

「・・・帰りたくない」

 小さな声で少女はそう言った。

「・・・・こういう時はどうしたらいいんだ?」

 このまま誰も通らない河川敷に少女を置いて行くのは気が引ける。だからと言って、少女の家に送るにしても帰りたくないと言っている少女が家の場所を教えてくれるとは思えない。しかし早くもっとちゃんとシャワーを浴びるなりしないと本当に風邪を引いてしまう。

「しょうがない・・・うちに来るか?」

 答えはこの一つしかないと悟は考えた。とりあえず、家に招き少女の体調を万全にすることにした。少女の家に送るのはそれからでも遅くないだろう。

 少女は悟にくっついてきて、悟の服をギュッと掴んできた。

 それを悟の家に行くのに賛成と言う合図と受け取り、悟は歩き出した。少女も悟にピタッとくっつきながら歩き始めた。その少女の様子は何かに怯えているように見える。

 悟の家へはそう距離はない。五分も歩かないうちに到着した。

「ただいま・・・と言っても誰もいないけどな」

 悟のうちは両親と妹の四人家族だ。そういう所も普通である。しかし、いま大事なのは家に誰もいないということだ。両親は仕事で帰るのが遅く、中学生の妹も部活でしばらく帰ってこない。

「とりあえずシャワー浴びてきな」

 少女を風呂場へ案内して悟は言った。少女もこくんと頷いて風呂場に入っていった。

 少女がシャワーを浴びている間に悟はバスタオルや着替えを用意し、少女が着ていた服を乾かすためにハンガーにかけ干すが、短時間の部屋干しでは乾き具合はたかが知れているだろう。

 しばらくすると、ペタペタという足音が聞こえてきた。少女がシャワーから上がってきたのだろう。

「おう、さっぱりしたか?・・・・っておい!」

 悟は声を荒げた。

 しかし、それも無理なからぬことだった。少女はシャワーを浴びた時の姿、つまり全裸のままでやってきたのだ。しかもビショビショに濡れたままだ。

「・・・・?」

 少女は悟が何を慌てているのか分からない様子でキョトンと首を傾げている。

「タオルと服は用意しといただろ」

 悟は極力少女を見ないように、なおかつ触らないように風呂場まで戻し、タオルで体を拭かせ、服を着させた。

 少女が悟の渡したTシャツを着ているときにあることに気付いた。今までは長い髪に隠れて分からなかったが、少女の耳は普通の人間とは異なっていた。

「・・・耳が長い?」

 そう少女の耳は長かったのだ。それはまるで漫画やアニメに出てくる妖精のようだった。

 困惑している悟の様子を見て、少女は口を開いた。

「・・・私は・・・・悪魔だから」

 小さな声で少女は言った。

 

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