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1月22・23・24日
木枯らしの吹く音寒き冬の夜はかけても君の恋しかりけり(樋口一葉)
大寒波が近づいてゐるらしい。古代の人が作つた暦、二十四節季とは正確なものだと驚く。また古今を問はず、寒さは人恋しさを刺激する。樋口一葉も恋人・半井桃水を想ひ、掲出歌を詠んだ。彼女の短い生涯にあたたかい愛があつたことに心が慰められる。
真白羽を空に連ねてしんしんと雪降らし来よ天の群鶴(岡野弘彦)
岡崎市美術博物館を訪ねるため三河地方にやつて来た。刈谷に宿泊。東海地方は寒いが雪ではない。逆に首都圏は珍しく雪になるといふ予報。今年一番の寒波。掲出歌の岡野弘彦は釈超空の弟子。歌と国文学の両方で今も活躍してゐる。
生きて負ふ悲しみぞここ鳥髪に雪降るさらば明日も降りなむ(山中智恵子)
山中智恵子は塚本邦雄や前登志夫と同じく鬼才前川佐美雄に師事し、歌人・国文学者として活躍した。しかし掲出歌は不思議な神話的なスケエルの歌である。人間が生きる悲しみ。それを象徴するやうに雪は降り続ける。悲しく、美しい光景である。首都圏に雪。