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12月10・11・12日
志賀の浦や遠ざかりゆく波間より凍りて出づる有明の月(藤原家隆)
今夜、皆既月蝕があるといふことで生徒たちも、世間の人たちも騒いでゐる。私も夜空を見てみたが、ハツキリ分からなかつた。掲出歌は冬の月を歌つて、国民的に有名な絶唱であり、新古今を代表する傑作である。
みちのくの山分け入りて一人なり一人となりて哭きゐたりけり(伊馬春部)
東日本大震災から9ヶ月。未曽有の国難に襲はれた年も暮れやうとしてゐる。中東、欧州、合衆国、東南アジアでも激動が相次いだ一年であつた。さまざまな意味で忘れがたい。掲出歌の作者・伊馬春部は釈超空の弟子で、太宰治の親友。
冬の夜の星、君なりき一つをば言ふにはあらずことごとく皆(与謝野晶子)
平成23年の歳末。今年の漢字は「絆」が選ばれた。東日本大震災だけではない。欧州、アフリカ・中東、東南アジア、合衆国。世界中がさまざまな苦難に巻き込まれた大乱世であつた。しかし、その中で大事なのが「絆」なのだらう。掲出歌は与謝野晶子が鉄幹のために歌つた挽歌であり、恋心、絆は終生変はらなかつた。