10月28・29・30・31日
秋毎に来る雁がねは白雲の旅の空にや世を過ごすらむ(凡河内身恒)
古代の人々は秋に雁が訪れ、春に雁が帰ることに季節感を感じた。そこには鳥といふ生き物を神秘と見なす信仰や、雁が恋文を届けるといふ伝説などもまつわりつき、豊かな世界観を築き上げてゐるのだらう。現代、雁を見かけるのも難しい。
身のうさは人しも告げじあふ坂の夕つげ鳥よ秋も暮れぬと(宮木)
上田秋成「雨月物語」の中の「浅茅が宿」のヒロイン宮木の歌である。戦乱の時代、都に旅立つた夫を想ひ、秋も暮れてしまふが逢ひたさはつのることを旅する鳥に告げて欲しいと願ふ。私たちも21世紀の乱世、大切な人を想ひ、生きてゐる。
柿紅葉貼りつく天の瑠璃深し(瀧春一)
叔母が柿を作つてゐて熟したのを持つてきてくれる。梨と柿は私の地元・大垣の名物であり、私の好物だ。桜や柿の木は葉も秋になると美しく色づく。それを桜紅葉、柿紅葉などと呼ぶ。日本語の何といふ美しさ。
白露にぬれふす萩のみだれ髪さし込む月もその根本まで(永井荷風)
昨日は一日中雨だった。永井荷風の歌は白露に濡れる萩を歌いながら、かすかにエロテイツクな香りが漂う佳品である。一年も残り二か月か。冬は厳しいが冬の美しさもある。