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10月16・17・18日
塩津山うち越え行けば我が乗れる馬そつまづく家恋ふらしも(笠金村)
古代の歌は信仰や祈りに満ちてゐた。馬がつまづくのは単なる自然現象でなく誰か(恋人や妻)が自分を思つてゐる兆しと古代人は考へ、万葉集の中にも記録した。そんな文芸の伝統の中に私たちは生きてゐる。
秋風に雲のかけはし吹き絶えて駒そつまづく家思ふかも(岡倉天心)
東洋を代表する思想家岡倉天心は万葉集の中の信仰にも通じてゐた。掲出歌は天心が中国に旅した時に詠んだもの。プロ歌人顔負けである。誰に捧げたのかは永遠の謎である。
黒髪の別れを惜しみきりぎりす枕の下にみだれ鳴くかな(待賢門院堀河)
藝術の秋なのだらうか、今日も音楽会に行った。ピアノ、ヴイオロン、セロ、ビオラのカルテツト。曲はマアラア、リスト、ブラアムス。掲出歌では秋の虫が恋の音色を奏でる。黒髪がエロスを暗示する。危険な歌だ。