9月7・8・9日
おほかたの秋の空だに悲しきに物思ひそふきのふけふかな(右近)
古代の人の旧暦は単純な気温ではなく、日差しや風への敏感な感覚と結びついてゐた。それは農耕と密接に結びついてゐたし、文化的行事とも結びついてゐた。秋の空のなんとないもの悲しさも日本人が受け継いできた感覚である。私もいろいろなもの思ひを抱へながら生きてゐる。
白露も夢もこの世も幻もたとへて言はば久しかりけり(和泉式部)
今日は二十四節季の白露だが、まだまだおひさまが出てゐると残暑が厳しい。これも温暖化のせいなのだらうか?和泉式部の歌ははかないものを挙げていき、それよりも私たちの恋ははかなかつたと歌ふ。ピリリと知性と皮肉が光る歌である。
菊の花若ゆばかりにそでふれて花の主に千代はゆずらむ(紫式部)
今日は9月9日。重陽の節句と言つて菊の花を飾るのだが、新暦ではまだ夏のやうで雰囲気が出ない。この日、菊の花の露を綿につけ、それで体を拭ふと不老長寿が得られるといふ信仰があつた。紫式部は土御門倫子(道長の妻)に菊を贈られ、ちよつと若返るほどふれて、不老長寿はあなた様に譲りますと歌つた。古代の人々の奥ゆかしさが偲ばれる。