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8月16・17・18日
卵産む海亀の背にとびのって手榴弾のピン抜けば朝焼け(穂村弘)
穂村弘さんの歌は言葉の組み合わせ方が素晴らしい。産卵する海亀。手榴弾のピンを抜く。そして朝焼けの美しい浜辺。バラバラの材料を一首の美しい詩歌に仕立て上げる。ため息が出てしまふ。意味が分からないのに美しい光景が目を閉じると広がる。それが詩歌の醍醐味だ。
裸祭りの花崎遼太乙女座の生まれ死にたいほどはづかしい(塚本邦雄)
塚本邦雄先生のあまりに華麗で、博い知識に裏付けられた詩歌を前にするとたじろいでしまふ。しかし塚本邦雄先生は掲出歌のやうな軽快で面白い歌も作ってゐる。8月も折り返したが若者たちは元気である。
もし君と結ばれなければ月の出る夜にだけ咲く桔梗になろう(岡しのぶ)
岡しのぶさんが掲出歌でデビユウした時はまだ十代だつたと思ふ。あはれ深く清々しい詠み口に詩的衝撃を感じた。リズミカルで若々しい詠みつぷりだが、日本の詩歌の伝統に連なる立派な作品でありながら、幻想美も感じさせる。