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8月10・11・12日
幼きは幼きどちの物語葡萄のかげに月かたぶきぬ(佐々木信綱)
立秋を過ぎたころこそが暑さのピイク。夜になると一息つける。佐々木信綱は夜の一時を過ごす幼子に限りない慈しみをかけられ、一首を詠まれた。絵のやうである。暑いけれど夏は果物が美味しい。
陸奥はいづくはあれど塩釜の浦こぐ舟の綱手かなしも(よみ人しらず)
大震災から5ヶ月が経つが必ずしも復興が進んでゐない面がある。東北の人々は無事にお盆を迎えられるのだらうか。掲出歌は古今集の東歌。源実朝の百人一首の作の本歌になつた歌である。
朝寝髪われはけづらじ美しき君が手枕ふれてしものを(柿本人麻呂)
朝、起きると髪までびつしより濡れてゐて、洗はないといけない。寝室には冷房がない。しかし柿本人麻呂は恋人がふれた髪を洗はないといふエロテイツクな歌を詠んだ。柿本人麻呂はアララギの歌人により風景の歌ばかり称揚されたが、恋歌の名手だった。