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6月28・29・30日
夜もすがら契りしことを忘れずば恋ひむ涙の色ぞゆかしき(皇后定子)
水無月は結婚の月とは外国の風習だが、今月は恋歌を選んできた。一晩中約束したことをあなたが忘れなかつたなら、あなたが私を恋うて流す涙は何色か知りたい。日本史を彩つた皇后定子と一条帝のロマンスである。藤原定家が「百人一首」の下書き「百人秀歌」に入れた傑作である。
夕顔や一丁残る夏豆腐(森川許六)
夏。暑い。まだ6月なのに真夏のやうである。江戸時代の人は食べ物をいためないやう大量生産はしなかつた。一丁のお豆腐と夕顔の花の白は響きあつてゐるのだらう。爽やかな涼しさを感じる。
水たまりにうつった空をとびこえてアタシあなたの明日になりたい(よみ人知らず)
掲出歌はNHKラジオで流された一般庶民の歌だが、古代の皇后の御歌にひけをとらない掛け値なしの傑作である。今日も長野県で大地震があり、節電に人々は苦しんでゐる。しかし、私たちの一人一人が誰かの「あなた」であり、「明日」であり、「希望」なのである。