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6月25・26・27日
手のうへにかなしくきゆる蛍かな(向井去来)
大震災から3ヶ月あまり。掲出句は芭蕉の高弟向井去来が妹の死に際して詠んだ句であるが、戦後の傑作「火垂るの墓」を彷彿とさせる。そして私は3ヶ月前亡くなられた幾万の方々のためにまた涙を流すのである。
世の中は憂き身に添へる影なれや思ひすつれど離れざりけり(源俊頼)
王朝時代の末期の芸術界のドン源俊頼の絶唱である。生きることは苦しい人生の影、捨てやうとしても捨てられない。大ボスだつた源俊頼にも何か苦しみがあつたのだらうか?私も時に煩わしさを感じてもこの生を捨てられないのである。
年ふれば齢は老いぬしかはあれど君をし見ればもの思ひもなし(清少納言)
私も年をとつたのか暑さがこたへる。清少納言は掲出歌を皇后定子、その夫の一条帝に捧げた。老いてもつらくても、「君」がゐれば、もの思ひなし。全ての人にそんな大切な「君」がゐる。暑い夏も乗りきることが出来る。