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5月10・11・12日
うちしめりあやめぞ香るほととぎす鳴くや五月の雨の夕暮れ(九条良経)
時鳥は夏の鳥だが、古代中国の神話では望帝といふ人物の魂が化身した神秘的な鳥と信仰された。そのため、さまざまな文学や古代日本の和歌にもあしらはれたのである。九条良経の歌では五月雨の中に咲くあやめの花にほととぎすがあしらはれてゐる。国民的に有名な傑作である。華麗で美しい。
昔思ふ草の庵の夜の雨に涙な添へそ山時鳥(藤原俊成)
「蘭省花時錦帳下・廬山雨夜草庵中」白楽天の有名な詩をもとに俊成はほととぎすをあしらつて切々とした調子に仕上げた。雨はやまない。大震災から2ヶ月。私も雨の草庵で昔を思ひ、悲しみをかみしめてゐる。
ほととぎす五月水無月わきかねてやすらふ声ぞ空に聞こゆる(源国信)
だうしたことか雨がやまない。掲出歌のやうにほととぎすも五月か水無月か分からなくなりさうだ。今年はやはり晴れやかな初夏とは行かない。世間、人心、動揺してゐる。雨はいつ止むのか?悲しみの声が空に満ちてゐる。