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5月1・2・3日
君と在るかかる夕暮れ茜さす歴史の淡き読点として(佐伯裕子)
佐伯裕子はA級戦犯として処刑された土肥原賢二将軍の孫娘として歌壇の注目を集める存在だつた。掲出歌は彼女の歴史意識と愛する人への想ひが交錯して生まれた優しいしらべの歌である。この君は恋愛を超えた全ての人への祈りのやうである。私たちみな互ひに歴史の中に君と在る喜びをかみしめてゐる。
人をそしる心をすて豆の皮むく(尾崎放哉)
放哉は東大を卒業し、大企業に勤めながら、関東大震災にひどくシヨツクを受け、仏教と自由律俳句に打ち込んだ。そんな放哉ですら掲出歌のやうな思いを時に抑へかねたのである。こんな句にもふと立ち止まらされる。大震災のあつた春も終はらうとしてゐる。
虹の根に雉なく雨の晴れ間かな(高井几菫)
ゴオルデンウイイクである。世情は決して明るくないし、天気もあまりよくない。しかし雨の後には虹が出るだらう。その根元には宝物が埋まつてゐるといふ言ひ伝へを江戸時代の俳人は知つてゐたのだらうか?高井几菫は与謝蕪村の弟子である。