3月16・17・18日
萩の花くれぐれまでもありつるが月出でて見るになきが儚さ(源実朝)
戦後文芸の巨人、吉本隆明氏が未明に亡くなられた。思想家、詩人、国文学者として一時代を築いた。ライヴアル岡井隆翁が追悼のコメントをしてゐるのが印象的だつた。吉本隆明氏の研究の大きな柱だつた源実朝の絶唱、辞世の歌を捧げる。季違いだが、ふさはしい。
山茶花の白を愛した母思へば葉と葉のあひだのつぼみ豊けし(安永蕗子)
昨日の吉本隆明氏に続き、今日は歌人で書道家としても知られる安永蕗子先生がお亡くなりになつた。岡井隆翁の言ふ文明の衰弱を感じる。掲出歌は昨年の宮中歌会始に出詠した最後の晴れの作品である。熊本県を拠点に生涯、活動なされた。
もののふの八十宇治川の網代木のいざよふ波の行方知らずも(柿本人麻呂)
今日は柿本人麻呂の忌日である。(もちろん伝説的な人物であり、今日、亡くなつたとは一種の神話であらう。)柿本人麻呂は歌の神として信仰の対象とされ、近代以降も斎藤茂吉などに高く評価されてきた。全てが代表作だが、いざよふ波の行方が分からないやうに、私たちも未来は分からない。そこに希望がある。