4月28・29・30日
明治大正昭和三代を夢とせば楽しき夢かわが見たりけり(斎藤劉)
斎藤史の父、劉(本当はこの字にさんずいがつく)の歌である。「楽しき夢」と歌つてゐるが劉の生涯はむしろ激動、政争に巻き込まれた苦しみに満ちたものだつた。それを知つてこの歌が本当に持つてゐる苦みを味わふと深い感慨がある。明日は昭和の日である。
くれなゐのしだれざくらの大池にかげをうつして春ゆたかなり(昭和帝)
今日は昭和の日。昭和とは激動の時代だつた。すさまじい大戦がありおびただしい犠牲者が出た。しかし戦後、オリンピツクや万博もあり、我が国は世界有数の大国となつた。その御代を振り返つての帝王の感慨である。繁栄と平和を謳歌してゐる。おおらかな歌である。
美貌なる昭和と誰か呟けり戦後六十年ののち愚かにて(石田比呂志)
「昭和とはなかなかいい時代だつたんだよ。貧しかつたけど、みんな元気だつた」そんな発言に石田比呂志は強い怒りを感じてゐる。昭和初期の大戦で信じられないほどの犠牲者が出た。また高度経済成長のかげでも泣いてゐる人がたくさんゐた。それを美しい言葉でごまかすな。石田比呂志は終生、常に権力や強者への怒りを持つてゐた。そして大震災により私たちも戦後の虚妄を悟つた。