4月1・2・3日
文学がお好きな方ならご存知のように毎日の新聞には時節に合った歌と簡単な歌が載っています。それのさきがけが大岡信先生が朝日新聞に連載を続けてらっしゃる「折々の歌」です。私も私なりに修行として挑戦してみます。一日分は短くて載せられなかったので、三日分をひとまとまりにしました。お気軽にお読み下さい。
ずぶ濡れのラガー走るを見下ろせり未来に向かふもの皆奔る(塚本邦雄)
たいへんな大災害が起きた。こんなことを言ふのは不適切かも知れないが、第二次大戦敗北以来の国難であらう。だが、暗鬱な作風の塚本邦雄でさへ、掲出歌のやうに力強く明るい歌を詠んでゐた。まだまだ私たちも負ける訳にはいかない。
明け暮れに昔恋しき心もて生くる世もはた夢の浮橋(与謝野晶子)
すべからく偉大な芸術家は古典主義であるべきである。久世光彦先生の「早く昔になればいい」は名言である。しかし大震災があり、私たちは本当にある程度の回帰を強いられるかも知れない。恋しい昔は便利で愚かだつた昔かも知れない。まことこの世は夢の浮橋である。
君見ずば心地死ぬべし寝室の桜あまりに白き黄昏(北原白秋)
今年は春が遅いやうな気がする。私の住む大垣では花見祭をやつてゐたがソメイヨシノはまだ満開ではない。私の住む大垣は大垣城の堀が水門川といふ川になつてゐて、屋形船が下り、人々が桜を眺めてゐた。掲出歌を詠んだ北原白秋の故郷も同じ水路の街柳川である。白秋も私もロマンの香りを吸つて生きてきた。