エピソード0:執筆者連合にて
再投稿です。
高くそびえる本棚にはしごを掛け、適当なものを何冊か手に取っていく。
ちらと周りを見渡せば、目に映るのは本、本、本。
────ここは執筆者達が「世界」を持ち寄り、保管しておく場所。
通称、執筆者連合だ。
誰かの空想。
誰かの物語。
誰かの歴史。
そういったものが、無数の本棚に収められている。
その中で、探し物をする人物...いや、本当に人だろうか?
本棚の上部、はしごの頂点。
白いなにかが、ひょこりと揺れる。
アクセサリーのようにも見えるが、その白く長い耳は紛れもなく、彼の頭から生えていた。
「このあたりはまだ読んでないし...面白い世界があるといいな」
そう呟いた彼は、特に何も考えず、ぎちぎちに詰まった本の一冊を引き抜く。
次の瞬間、連動するように、数冊の本が棚から滑り落ちた。
「あ、やっちゃった」
焦りもせず、間の抜けた声が静かなこの場所に響く。
彼は赤と白のオッドアイで、茶縁のメガネを通し、落ちていく本をぼんやりと見つめている。
「やっぱり、高いところから取るのは良くないな」
彼ははしごから飛び降り、音を立てずに着地した。
…しかし本を拾う様子はなく、てくてくと備え付けられたテーブルへ歩いていく。
気づけば本は空中で氷漬けにされ、意思があるように浮かび上がり、元あった場所に戻されていた。
それを確認した彼は、満足そうに頷く。
「うん、これで問題なし」
白銀の髪の青年。
兎の耳を揺らしながら本をめくるその姿、それはどう見ても、真面目な読書家だと思えないだろう。
彼の名はメテオ。
数多の物語を読み、世界を理解し、気が向けばその中に入り込む。
物語を綴るべき執筆者でありながら、人の世界を旅することを好む放浪者でもある。
そして何より、変わっている執筆者達の中でも、かなりの変人として知られる人物だった。
「さてと...」
メテオは本のタイトルも見ず、ぱらぱらとページを捲っていく。
「どんな世界かな」
まだ序盤だ。世界の設定が書かれているだけで、特段目を引くものはない。
竜の父と、英雄の血を引く母から生まれた少女。
少女を利用しようと動く帝国。
そして少女の魔術により、国が滅ぼされる。
どこにでもありそうな物語だった。
「ふーん...」
もう少し読み進めようと指を繰ると、
「相変わらず、好き勝手やっているな」
突然、背後から声がした。
メテオは本を読む手を止めもせず、振り向きもしない。
「こんにちは、ドローサ」
気にもとめない態度で、メテオは応える。
この執筆者連合の創設者であり、執筆者達をまとめるリーダーのような存在。
彼女は会話を望んでいるのか、無言でメテオの隣に立った。
「...なに?」
「いや、何を読んでいるのかと思ってな」
ドローサはメテオの手元を覗き込む。
長い紅蓮の髪がさらりと垂れ、テーブルに影を落とした。
それに気づいたメテオは「はぁ」と溜息をつくと、ナレーション風に話し始める。
「竜の父と英雄の血を引く母、その間に生まれた少女は大いなる力を持っていました。それを利用しようと帝国は動きますが、少女は利用されまいと魔術で帝国を滅ぼしましたとさ。────こんな感じの、どこにでもある物語だよ」
「...そうか。タイトルは?」
「まだ見てないよ。面白くなかったら、覚えておく意味もないしね」
メテオがそう説明している間に、ドローサは彼の反対側の椅子に着いた。
立てながら読まれる本の表紙を見た彼女は、寂しさと嬉色の混じる、言葉にし難い表情を浮かべる。
「...気は済んだ?」
「あぁ、まあな」
ドローサは視線を本から外し、物思いにふけるように背もたれへ体を預けた。
「...メテオ」
しばらくの後、ドローサが再び呼びかける。
「なに?」
変わらず、メテオは文章を目で追っている。
それを見たドローサは、まるで結末を言うのを躊躇うように、次の言葉を口にした。
「その本はな、まだ未完成なんだ」
その言葉に驚いたのか、メテオはようやく顔を上げた。
「...珍しいね、ここにあるのって、大体完成した世界でしょ?」
「そうだな。そしてその本は、私の旧友が書いていたものだ」
またしばらくして、メテオは開かれたページに目を戻す。
しかしその瞳には、先程とは違い好奇心が覗いている。
「内容、知ってるの?」
「大まかにな」
「...ふーん」
ドローサからその言葉を聞いたメテオは、ポケットからあるものを取り出した。
「執筆者の栞...入るのか?その世界に」
「そんな重々しい口調で言われたら、誰だって気になるでしょ」
白い兎のマークを取り囲むように、氷と炎のイラストが書かれた栞。メテオはそれを、読んでいるページに差し込んだ。
瞬間、メテオの体と、栞が光に包まれる。
光は瞬く間に強くなっていき、収まった時には、テーブルに、ドローサと閉じられた本しか、残されていなかった。
「...行ったか」
メテオが世界へ旅立ったのを見ると、テーブルから立ち上がり、ドローサは執筆者連合を後にした。
「ようやく、君の願いが叶うようだよ......エンドレス」
最後に残った本の表紙には、こう綴られていた。
『女王ルリオンの誕生奇譚
────作:エンドレス・ルーフィン』
「女帝レイルの誕生奇譚」とほとんど変わりはないですが、タイトルとキャラクターを大幅に修正したので作品自体を再投稿しました。




