06.チームY
セントラル・オービタルに夕暮れが訪れ、その広大な街からは、無数の灯りが瞬き始めていた。それぞれの場所で休日を過ごしていたチームYのメンバーたちは、GRSI本部隊員用の宿舎にある共用キッチンへと集まり始めていた。
キッチンからは、既に香ばしい匂いが漂っていた。イヴァンが腕まくりをして、フライパンを器用に操っている。彼が菜園で丹精込めて育てた新鮮なレタスや、オービタルの市場で手に入れた宇宙魚の切り身が、調理台に並べられていた。
「おう、カケル!おせーぞ!腹減ってんだろ?」
イヴァンが振り返り、カケルに声をかけた。彼の顔には、汗と、どこか誇らしげな笑みが浮かんでいる。
「すまない、少し瞑想に時間がかかった」
カケルは穏やかに答えた。彼の表情は、朝の瞑想の後のように清々しい。
そこに、ミリアムがアンティークショップで手に入れたオルゴールを抱えてやってきた。
「ねえ、聞いて聞いて!今日、とっても素敵な音を見つけたの!」
彼女は皆の注目を集めると、そっとオルゴールのネジを巻き、かすかな、しかし優しいメロディを奏で始めた。古びたオルゴールから流れる音は、どこか懐かしく、温かい。
「へえ、こんな音、初めて聞いたぜ」
イヴァンが調理の手を止め、興味深そうに耳を傾けた。彼の表情が、普段の荒々しさとは裏腹に、ふっと和らぐ。
エミリーも静かにオルゴールの音に耳を傾け、その表情には微かな安らぎが浮かんでいた。
「心地よい音色ね。このオービタルに、こんなに優しい音が隠されていたとは」
「この音の構造は非常にシンプルだが、共鳴する周波数帯が特殊だ。アナログ特有の揺らぎが、ある種の心地よさを生み出している」
ノアは、分析するように言いながらも、自分の作ったロボットも出してリビングの壁に投影し始めた。奇妙な光の模様が壁一面に広がり、オルゴールの音色と相まって、不思議な空間を創り出す。
「ノア、それ、君が作ったのか?」
カケルが、壁に映し出される光の模様に目を細めた。彼の冷静な声にも、わずかな驚きが混じっている。
「ああ。ジャンクパーツを再構成し、新たな秩序を付与した。実用性は皆無だが、試作としては悪くない」
ノアは、淡々と答えた。その「無意味」な創造物が、この空間に独特の彩りを添えている。
「ふふ、みんな、すごいね!」
ミリアムは、皆がそれぞれの休日の成果を披露し、共有し合っていることに、心から楽しそうに笑った。彼女にとって、皆が互いの個性を受け入れ、喜びを分かち合うこの時間が、何よりも大切だった。
やがて、イヴァンが仕上げた料理が食卓に並べられた。菜園でとれたての瑞々しいレタスを使ったサラダ、香ばしく焼き上げられた宇宙魚のグリル、そして惑星アースのレシピを再現したという、イヴァン特製のシチュー。
「今日の夕食は俺のスペシャルだ!菜園でとれたての野菜を使った絶品サラダと、特製の宇宙魚グリルだぜ!」
イヴァンが胸を張って言った。
「わーい!イヴァンのお料理、美味しいから楽しみ!」
ミリアムは目を輝かせた。
「イヴァンの野菜、新鮮でいい香りね。ノアのロボットも、見ていて飽きないわ」
エミリーが静かに言った。
「ノアのそういう一面は、いつも驚かされるな。ミリアムのオルゴールの音も、心地いい」
カケルも穏やかな笑顔で頷いた。
賑やかな会話が弾む中、皆で食卓を囲む。任務中の厳しい表情は消え、互いの意外な趣味や発見について語り合い、笑い合う。
カケルの瞑想の話、ミリアムがオルゴールから感じ取った温かい記憶、イヴァンが菜園で植物を育てる繊細な一面、エミリーがアーチェリーで追求した完璧な軌跡、そしてノアが作った「無意味」な創造物。
それぞれの個性が、まるで夜空の星々のように輝き、一つに溶け合うような温かい時間が流れた。このセントラル・オービタルでの休日は、彼らにとって何よりも大切なものだった。明日からはまた、GRSIのエージェントとして厳しい任務が待ち受けているかもしれない。しかし、この休日に培われた、互いへの理解と、より一層深まった絆が、彼らを支える力となる。
食事を終え、リビングでくつろぐチームY。窓の外には、セントラル・オービタルの灯りがきらめき、その向こうには無数の星が瞬いている。
「このオービタルって、色んな音がするけど、みんなの音は一番心地いいな」
ミリアムが満足そうに呟いた。
カケルは、その言葉に静かに頷き、遥か彼方の星空を見上げた。
「そうだな。どんな任務も、みんながいてくれるから乗り越えられる」
セントラル・オービタルの夜空の下、チームYの間に、温かい星屑のハーモニーが響いていた。




