15.絶えることの無い痛みひとひら、②
ノートパソコンの右矢印をクリックして、写真をめくりながら、納得行かないように時々首を傾げている。
「違い、判んない」
ハリアカの心中を代弁するかのように、フイがはっきり告げる。
「──どうして同じ写真を何枚も撮るの⁉︎」
フイはハリアカの肩に腕を置くと、ノートパソコンの画面を覗き込む。
「同じように見えるだろ? でも少しずつ違うんだ。この同じような中から一番良いのを選び出す…これは傑作だな」
ワイルアが次に手を止めたのは、ハリアカとフイとアタアフアの三人が抱き合って、笑っている写真だった。
「うん、これは私も良い写真だと思う」
そうハリアカは答えてみるが、やはり写っているのは自分ではない気がした。
彼のカメラを通した自分は、こんなふうに見えるのか…、という気恥ずかしさと違和感。
「当たり前でしょ? 可愛いフイちゃんが写っているんだもん」
フイが自信満々で答える。
「ランギ、聞いたか? フイが可愛いだって!」
「聞いた! 自分で可愛いって言うなよな!」
「何よ! さっきの写真、格好付けていたくせに‼︎」
再び言い争いを始めた子供たちに、大人たちが制止をかける。
「もう! 騒ぐなら、これでお終い」
「ほら、ケンカするなって。この写真は、みんなで作った、それで良いだろ?」
ワイルアは、そう言いながらも写真をめくる手を止めない。
「やだ! もっと見たい」
「ごめんなさーい」
「俺たち写ってないのに、皆んなで作ったって、どういう事だよ〜」
ワイルアが次に手を止めたのは、ハリアカを中心に全員が写った写真だった。
何枚かめくり、戻り、まだめくるを繰り返す。
そして一番良いと判断した写真を選ぶ。
「ふっ…良い写真だ」
ハリアカを中心とした、子供たちが無邪気に、そして幸せそうな笑顔をしている写真だった。
自分たちの置かれている環境や、生い立ちなど関係無いといった笑顔。
それは今まで撮影して来た、どんな笑顔よりも眩しかった。
目を細めて微笑むワイルアを見たハリアカは、その視線の先を覗き込む。
「…みんな楽しそう」
「あぁ、そうだな」
「あの…ありがとう。皆んなの写真、撮ってくれて」
ワイルアとハリアカの視線が合う。そして、どちらからともなく微笑んだ。
そんな二人を見て、フイが間に入り込む。
「だから言ったでしょ? 撮って貰った方が良いって」
フイは孤児院の仲間たちが映し出されている、ノートパソコンの画面をじっと見る。
「──…ねぇ、この写真ちょうだい」
「フイ!」
ハリアカがそれを咎める。
「良いよ」
しかしワイルアは即座に了承する。
「──ちゃんとパネルにして、飾れるようにしてやるよ」
「ほんと⁉︎」
「フイッ‼︎」
ハリアカは尚もフイを止めようとして、彼女の口を塞ごうとする。
「──ごめんなさい」
ハリアカはワイルアに許しを求める。
「──この子たち、我が儘ばかり言って…」
「これくらい何でもないよ。モデル料も払ってないしな」
そう言って、ワイルアはフイに向かってウインクをした。
「やったーー‼︎ ワイルア、大好き!」
フイは喜びを隠す事なく、ワイルアに飛びついて、首に腕を回した。
すぐ横でフイの行動を目にしたハリアカの胸がざわつく。
ワイルアは「苦しいよ」と言って笑っている。
「フイ、ご迷惑だから放しなさい。もう終わり!」
最後は語気が強くなってしまった。
「──ほら、もう寝る時間だから」
慌てて普段の声のトーンに戻す。
確かにいつもなら、隣りの寝室で寝る準備をしている時間だった。
就寝の鐘は、とうに鳴ったはずだ。
「えーー‼︎」
「あと少しだけ!」
「ハリアカ、お願い」
子供たちはまだ見足りず、ハリアカに懇願して来る。
ハリアカの背後から抱き付いて、お願いをして来る子もいた。
「もう…ダメ。明日、起きれないと先生に怒られるでしょ?」
ハリアカは優しく抱き付かれた腕を解く。
「それは問題だな。よし、続きは明日だ」
そう言って、ワイルアはパタンとノートパソコンの画面を畳んでしまった。
ワイルアの顔を照らしていた明かりが消えた。
「え〜〜」
「明日、ちゃんと起きるから!」
「明日、また見せてくれる?」
アタアフアが小首を傾げて見上げていた。その黄褐色の小さな頭を撫でる。
「あぁ、約束するよ」
そう言って、ワイルアはノートパソコンを持って立ち上がった。




