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一揃いの曙光《Quantiz and Synesthesia》  作者: 弥都 史誠
第八章

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15.絶えることの無い痛みひとひら、①

「…あっ」

 小さく呟く間に、それは消えてしまった。

「ハリアカ…遅いねぇ」

 アタアフアの心配そうな声で、我に返る。

(いけない。こんな事をしていては)

 ハリアカは扉をそっと開ける。

 仄かにオレンジ色に染まった薄暗い部屋の片隅──いつも食事をする位置で、一際明るい光がワイルアの横顔を照らしていた。

「あ! ハリアカ‼︎」

 フイが真っ先に気付き、ハリアカの元へ走る。

「ごめんなさい、遅く…フイ!」

 ハリアカに最後まで言葉を紡がせず、フイはハリアカの右手首を掴む。

「もう、早く来て! 丁度ハリアカの写真見ているところなんだから!」

 興奮気味にそう言うと、ハリアカを引っ張る。

 ハリアカは少し前屈みで、されるがままにフイについて行く。

「ハリアカ!」

「ハリアカ、遅いよ‼︎」

「早く早く〜っ」

 子供たちが口々に自分の名を呼ぶ中で、ワイルアがこちらを見て微笑んでいた。

 何故だか彼を直視出来なかった。

「はい、ここに座って!」

 フイに強引に座らされた横に、ワイルアが居た。

 その勢いで、ワイルアのTシャツから覗く上腕とぶつかった。

 上着の袖の薄い布一枚でも、ワイルアの体温と筋肉の質感を感じる。

 矢を射たれたような、痛みが胸を走った。

 ショールを巻いてくれていた時に感じた息苦しさでもない。手を繋いで堤防の階段を降りた時の熱でもない痛み。

 膝に広がったダックブルーのショールを見ながら、その正体に戸惑う。

「ごめ……」

「ぅわっ‼︎」

 ハリアカが謝ろうとした時、ワイルアの上に乗っていた子供が転がり落ちた。

 全員が彼に注目する中、ハリアカがいち早く声を掛ける。

「大丈夫⁉︎」

「いったー」

 子供たちから、一斉に笑いが起きる。

 彼は起き上がって、その場で胡座をかくと頭を摩った。

「──大丈夫」

「もう! 人の上に乗ってるからよ」

 フイが呆れて言う。

「だって…一番良く見えるんだもん」

「だからってねえ──」

「はいはい、ケンカしない」

 ワイルアが間に入る。

「──俺は平気だよ」

 ハリアカとワイルアの視線が合い、彼は何でもない、と言ったふうに笑った。

「──それより見て、写真」

 ワイルアはノートパソコンに目を移すと、左矢印をクリックする。

 タプの樹の下で、舞い落ちる葉を見上げたハリアカが写った写真を画面に表示させる。

「…これは」

 陽光の光の粒に囲まれた自分が写っている。

 確かにこれは自分が写っている。なのに画面の中の自分は何故か別人に思えた。

「私、このハリアカ好き」

 いつの間にか、フイがハリアカの背中から顔を覗かせていた。

「だろ? 俺もこれは良い写真だと思う…うん」

 ワイルアは満足気に、左手を顎に当てると笑った。

 ハリアカがワイルアを見ると、その画面を見つめる目が、とても柔らかい物であると気付く。

 胸がズキリと痛み、ざわついた。

 今日の午後から感じる、この心臓を掴まれたような痛みは何なのだろう…。

 それを表す言葉を探してみるが、見つからない。

 ハリアカは膝のショールを握った手に目を落とす。

「このタプの葉を落としたのは俺だよ!」

 ランギが自分の手柄を主張する。

「えー! 葉っぱを集めたのは、あたしたちよ‼︎」

「ランギ、狡いぞ。俺も葉っぱ落とした!」

 再び子供たちがお祭り騒ぎを始める。

「きみはどう思う?」

 騒ぐ子供たちを他所に、ワイルアはハリアカに感想を求める。

「…え、っと…」

 ハリアカは少し考える。

「──何だか…私じゃ、ないみたい…」

 そう言ってワイルアに向けられた顔は、仄かに朱に染まっていた。

「間違いなく、きみだよ」

 ワイルアは次の写真を見せる。

「──これは光が少し強いな…青色が飛んでる」

 ハリアカには違いが判らない。しかしワイルアの目には違って見えるのだろう。

 そう言えば…、とハリアカはワイルアの言葉を思い出す。

『青色を撮影するのは、難しいんだ』

 その写真を見ているワイルアの目は、眉間に皺を寄せて、真剣な眼差しだった。

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