14.天《てん》の川の一つ星。②
そしてバックパックからノートパソコンを取り出す。
次にカメラからメモリカードを取り出した。
それらを持って、子供たちの元に向かう。
「ここ、座って‼︎」
フイが輪の中心を叩いて、ワイルアに座るように促す。
ワイルアはそこに胡座をかいて座ると、ノートパソコンを開いて電源を入れる。
初めて見る機械に、子供たちは興味津々で覗き込む。中にはワイルアの背に乗って、覗き込んでいる者も居た。
「これで写真見れるの?」
「あぁ、そうだよ。大きな画面で、皆んな一緒に見れるぞ」
「ねぇ、まだ?」
「もうちょっと待ってくれ」
「早く見たいぃ〜」
ワイルアは子供たちに全身を揺らされながら、スロットにメモリカードを差し込む。
いつもマウスを使っている為、タッチパネルでの操作が覚束ない。
使い込まれた動作の遅いノートパソコンで、やっと今日撮影した写真のフォルダにカーソルを合わせた。
「良し、開けるぞ」
ワイルアの言葉に、子供たちは固唾を飲んでにじり寄る。
フォルダを開くと、写真のアイコンが画面いっぱいに並んだ。
「何だよ〜小さいじゃん」
ランギの落胆した言葉に、ワイルアは彼を見ながらニヤリと笑う。
「見てろよ…ほら!」
左上のアイコンを開くと、屋台通りで撮影した写真が画面に広がった。
構図を取った通りの写真に、ワイルアは満足する。
朝の屋台の熱気が伝わる、良い一枚だと思った。
「──どうだ?」
少し得意気に子供たちに問う。
「……」
しかし子供たちからの反応は無い。一瞬の沈黙の後、一斉に騒ぎが起こる。
「俺たち、居ないじゃん」
「違う〜この写真じゃないの!」
「こんなの、いつも見てるよ‼︎」
あぁ、そうか。彼らが見たいのは日常ではない。
初めての写真撮影という体験、日常の中にある非日常が見たいのだ。
ワイルアの価値観が、再び揺らぐ。
「分かったよ、ちょっと探すから待って」
画面を下にスクロールして、タプの樹で撮影した最初の写真を探す。
何十枚…いや、百枚以上の写真をスクロールした所に、その写真を見つけた。
「──あ、これだ」
今度こそ、子供たちは喜んでくれるはずだ。
最初の一枚を開く。
そこには笑顔を爆発させたフイを中心に、少し戸惑ったようなアタアフアに、タプの樹の上で自分なりに格好つけたランギとフェヌア、恥ずかしそうに笑う子たちが写っていた。
「ランギ、格好つけ過ぎ!」
「フイだって、笑い過ぎ!」
「次、見せて」
枚数が多い為、ワイルアは次々と写真を表示させて行く。
「何⁉︎ このランギの顔‼︎」
「アタアフア、可愛い〜」
「あ! この時、私の事蹴ったでしょ⁉︎」
写真を開いて行く度に、子供たちは撮影した時の思い出を興奮気味に話して行く。
ワイルアは子供たちが、写真に満足してくれた事に安堵する。
そしてハリアカの写真が、画面に表示された。
俯いて不安気なハリアカの写真は、ホワイトバランスを調整する時に、思わず撮ってしまった写真だ。
「あ! ハリアカだ‼︎」
「あー、これはダメだ、失敗作‼︎」
ワイルアは密かに撮影してしまった写真を、隠すように、素早く右矢印をクリックした。
「今のハリアカ、見たい! 戻して‼︎」
「ダメダメ‼︎」
「ハリアカがあんな顔してるの、初めて見た〜」
「失敗作は見せられない‼︎」
そう言って、次々と右矢印をクリックして行くも、ぎごちない表情のハリアカの写真が続く。
ワイルアと子供たちの話し声を聞いて、ハリアカは孤児院の扉に手を置いて立ち止まる。
みんなが自分の写真を見て騒いでいる事に、戸惑い恥ずかしくなる。
顔が熱い。
「………っ」
完全に中に入るタイミングを外してしまった。
「あ! この写真良い!」
フイの声だ。
ハリアカは扉に背を預けて、中から聞こえる話声に耳を傾ける。
「このハリアカ、綺麗だねぇ」
アタアフアの声が微かに聞こえてた。
「はっはっ! これは見せれる写真」
ワイルアの声だ。
持っていた宿坊の鍵を両手でぎゅっと抱き締める。
言葉に出来ない感情に、胸が締め付けられる。
ふと、天を仰ぎ見る。
ポーウリの中に無数の星が川の形を成し、光輝いている。
ハリアカは彼の声を背中で感じる。
『…っ、すまない。無断で撮ってしまった。その…きみの、写真を』
昨日の夕刻、突然、声を掛けられた。
少し端の曲がった、差し出された真白な名刺。
それには黒インクのゴシック体で、肩書きと名前、連絡先のみが書かれていた。
そして必死に謝罪をし、モデルになって欲しいと訴えてくる瞳。
その瞳のポウリウリと反射光がアラ・ウェトゥと重なる。
久し振りに見上げた夜空は、こんなにも美しかったのか…。
星が一つ流れ落ちた。




