13.彷徨う琥珀色は、①
そうと決まれば、あとは早かった。
早々に食事を終えて、全員でワイルアが滞在しているゲストハウスへ向かった。
ワイルアの荷物は決して多くはない。ハリアカとランギが荷造りを手伝って、すぐに終わった。
まず、ワイルアの衣類が入った大きなスーツケースを持ったランギと、カバーに入った重い三脚とダックブルーのショールを持ったハリアカが外に出る。
ゲストハウスの前では、フイたちが道路で遊んで待っていた。
「お待たせ」
ハリアカは子供たちが全員揃っているのを確認する。
ワイルアは今までの宿泊費をクレジットカードで支払い、あっさりとそこを出た。
ハリアカと目が合い、彼は僅かに微笑んだ。
「じゃあ、私たちのお家にレッツゴー‼︎」
フイが左手を振り上げて、先頭に立つ。アタアフアがフイの手を握って、二人で歌を歌い出した。
その後ろを子供たちが続く。
「ランギ、重たくない?」
ガラガラと音を立ててスーツケースを引くランギに、ハリアカが声を掛ける。
「これくらい、大丈夫だよ!」
そう言ってはいるが、ランギの背丈ではスーツケースは大き過ぎるように見えた。
「ランギ、代わるぞ」
ワイルアも声を掛ける。
「大丈夫だってば‼︎」
ハリアカとワイルアの前を歩いていたランギは、強気でそう叫んだ。
その証拠に、引いていたスーツケースを押す形に歩き方を変えた。
自分が持つと言い出した手前、大人に頼るのはバツが悪かったようだ。
それを見抜いた最後尾を歩く二人は、顔を見合わせて苦笑した。
「三脚、ありがとう。持つよ」
ワイルアはハリアカが肩に掛けている三脚を受け取ろうとする。
「私も大丈夫」
ハリアカは小首を傾げて含羞んだ。
「──あなたの方が荷物、多いし」
「じゃあ、すまない。何から何まで」
ワイルアは肩掛けバッグの位置を直す。
そして二人は並んで子供たちの最後尾を歩き始めた。
ダウンタウンを抜けて、大河の堤防沿いを歩く。
先頭を歩くフイとアタアフアは、相変わらず歌を歌っていた。
ハリアカは後ろから、子供たちを黙って見守っていた。
しかしワイルアは、何か話す話題は無いか、何を話せば良いのか心がむず痒かった。
ふと、大河に目をやる。
河の水量は、堤防の階段が数段以上は沈んでしまった程深くなっていたが、夕潮の勢いは消えていた。
間もなく水平線に太陽が沈む。
隣を歩くハリアカの横顔を、残照が照らす。
ハリアカの白い肌に乗ったミロの実の香りは、間もなくやってくる夕暮れに飲み込まれそうで、儚くも見えた。
「…何? 何か、付いてる?」
ワイルアの視線に気付いたハリアカが、ふっと優しく笑った。
「いやっ…」
ワイルアはハリアカに気付かれた事を、何とか誤魔化そうとする。
「──夕陽が凄く綺麗だと思って」
あぁ、と言うように、ハリアカも大河へ向いて、夕空を確認する。そしてすぐにワイルアへと振り返った。
「写真、撮らなくても良いの?」
その言葉に、ワイルアは写真の事など、すっかり頭の中から抜けていた事に気付く。
「あ、そうだ」
急いでカメラをカバーから取り出した。
「──写真、撮っても?」
立ち止まって、カメラをハリアカに見せる。
「うん…」
ハリアカは軽く頷いた。
しかしワイルアは、構えたカメラを降ろした。少し考えてカメラをしまう。
「やっぱり止めておくよ」
「どうして?」
ハリアカはほんの少しだけ驚いた表情をする。
「この美しさは、写真より目に焼き付けておきたい…かな」
このすぐに消えてしまう刹那は、記憶の中に残しておく方が相応しいと思った。
それは夕空の美しさではない。
「ふっふっ…なぁに、それ」
笑いを堪えて、ハリアカは肩の三脚を肩に掛け直す。
「何でもない。ただ、そう思っただけだよ」
ワイルアそう言うと、子供たちの後を追った。




