96カレヴィを呼ぶもの
私はセリ殿を部屋まで送るといきなり懐かしい笛の音が聞こえた。
この笛の音は‥確かリンネ様に渡した笛の音だが?
まさか、彼女と契約していたのはもう四十年以上も前の事。今さら彼女が私を呼ぶなどあり得ない。
でも、笛の音は病むことがない。
まさか、リンネ様の身に何か起こったのか?
胸がざわつきどうしようもない不安が沸き起こった。
私はとうとうその笛の音のする場所を目指していた。
ドラゴンの城を出て魔の森の近くまでやって来た。
すぐにドラゴン数頭がいるのを見つけた。そしてその中に懐かしい人の姿を見た。
急降下でドラゴンのいる場所に降りて行くとすぐに人型に変わった。
私は周りの物などお構いなしに真っ直ぐに呼び出した主のところに駆け寄った。
「リンネ様、お懐かしい。相変らずお美しい」
さっと、彼女を手を取りたまらず唇を押し付けた。
唇から伝わるその温もりを感じて胸が熱くなった。
紫色の瞳がそのはにかむ姿を捕らえるとふにゃりと緩んだ。
そう、私はリンネ様に恋をしていた。
昔の彼女はそれはもうお転婆で騎士として活躍していて普通女性に契約竜など付かないのだが彼女はどうしても竜と契約したいと王にねだったらしくそれで私が契約竜となったのだが、彼女はプロシスタン国の皇姫。ドラゴンの私などと一緒になれるはずもなかった。
でも、リンネ様を思う気持ちはずっと変わらなかった。
「カレヴィ。お前は変わっていないのね。私は年を取ったわ」
「そんな事はありません。あなたはあの頃のまま美しい」
「コホン。大叔母様、そろそろ話しを」
カイヤート殿下もいた。
私はやっと回りを見渡す。
そこにはプロシスタン国にいるドラゴンと騎士、それに数人の人間まで?
「カレヴィ、私達はセリを助けに来たの。それで状況が知りたくてあなたを呼び出したの。ごめんなさい。あなたの立場もあるのに‥」
ああ、そうか。カイヤート殿下は必ず助けに来ると言っていた事を思い出す。それでこんな大軍団を率いて‥
「いいえ、セリ殿には申し訳ない事をしました」
いきなりカイヤート殿下首を掴まれた。
「お前セリをどうした?セリは?セリはどうした?」
「く、苦しい‥セ、リは無、事‥です」
やっと声を絞り出す。
そこでやっと首の力が緩められた。
「すまない。協力してもらっているのに‥つい‥セリは無事なんだな?」
カイヤート殿下が謝りながらもほっと息をついた。
「はい、兄のヴァニタスはリガキスと言う寄生虫に操られていたらしいんですがセリ殿が駆除して下さって、もう大丈夫だと」
私はリガキスの事を詳しく話した。
魔呪獣の血液がリガキスに有効だった事や半年ほど前から兄がおかしくなった事を説明した。
「しかし、不思議な事があるもんだな。リガキスは今までもずっとドラゴンに寄生していたんだろう?それなのに今になってどうしてこんな事になったんだ?」
一緒にいたシェルビ国のキアードという人物が言った。
「もしかしたら魔呪獣の呪いがドラゴンに寄生しているリガキスをおかしくしたのかもしれませんよ。長い間呪いがリガキスを蝕んでリガキスに何かが起こったのではないでしょうか?‥あっ!そうなると魔呪獣の血を摂取したドラゴンは危険かもしれません」
「カレヴィ。魔呪獣の血を取ったドラゴンはどれくらいいるの?」
リンネ様に尋ねられて考える。
「そうですね。ドラゴンの半数以上と言ったところかと、中には年寄りや雌もいますから雄の元気なドラゴンなら三十頭ほどかと、それに危険な状態のドラゴンは水晶玉に確保してあるのでそこまで危険なドラゴンは‥」
カイヤート殿下が一歩前に出た。
「とにかく、一番にセリを助け出す。その後この宝剣を使って浄化すればきっとそのドラゴン達も元に戻るんじゃないか」
「ああ、殿下の言う通り。まずはセリ様の身の安全が一番だ。そうと決まれば、みんな行くぞ!!」
ライノス騎士隊長が掛け声を上げた。
「カレヴィ。あなたも協力してくれる?」
リンネ様が私にお願いを。
「ええ、もちろんです。リンネ様のためなら例え火の中水の中ですよ」
私は二度と会えないと思っていた恋しい人に会えた喜びで舞い上がっていた。




