89知らなかったセリが危険だなんて!(カイヤート)
俺はビーサンに乗ってすぐに王都リクヴェを目指した。
「ビュクゥゥォォォ~ (悪かった~)」
「ったく。お前知ってたのか?」
俺はビーサンから話を聞く。
何でもイエンスから脅しが来たのは俺達がシェルビ国に向かった後だったらしく、まだ呪いが浄化出来ていない時だったらしい。
その程度ならペッカルの奪還など簡単だと思っていたらしいが、俺達が浄化して魔呪獣が獣人に戻った事で事態は悪化した。
ビーサンたちドラゴンは互いを呼び合い意思の疎通が出来る能力があって、ビーサンはセリを城に連れてくるように命令を受けた。それに加えてイエンスが俺を殺したいと思っている事から途中で俺を振り落とすようにとも命令されたらしい。
「ビュビュビュリュ~(ほんとに悪かった)」
ビーサンとカイヤートは契約関係。いくら王の命令でも心は痛んだらしい。
「謝らなくていい。俺の事心配してくれたんだろう?ビーサン頼みがある。リクヴェに帰ったら協力して欲しい。イエンスは精鋭部隊でペッカルを逃がさないようにしているはずだ。お前の力が必要なんだ」
「キュキュキュリュゥゥ~(もちろん仲間を助けるためだから協力する)」
ところがビーサンは意外な事を話した。
最近ヴァニタス王の様子がおかしいんだと。
弟のカレヴィの話によるとヴァニタス王はここ半年ほど魔呪獣の血を使って治療をする事をやめている。
ヴァニタス王の考えは、呪いを受けた血は必ず後で支障が出るからとの一点張りで、王妃にも使わせなかったし他のドラゴンにも使わせようとしなかった。
そのせいでリガキスに寄生されたドラゴン数頭が暴れ始めた。
王はそれを時が来たら出して治療すればいいと言って俺と同じように水晶玉の中に閉じ込めたらしい。
とにかく、この半年のヴァニタス王は乱暴になり時には弟のカレヴィの言うことも聞かなくなり勝手な事ばかりしていると言うのだ。
あちこちの国に監視部隊を送りこみまるで侵略でも始めるんじゃないかと思うほどドラゴンたちの戦闘訓練も始めている。
カレヴィ一派のドラゴンたちがそんなヴァニタス王に反発したけど、逆にヴァニタス王にこっぴどくやられて今は大人しくなってしまった。
今ではほんの一握りのドラゴンがカレヴィに協力しているらしくビーサンもその仲間だと言った。
それにプロシスタン国にいるドラゴンはカレヴィに従うつもりでヴァニタス王の所に帰っていないのだとも。
今、プロシスタン国にいるドラゴンの数は七頭。
皇王と契約しているシルバとイエンスのペッカル、俺のビーサン、それに辺境伯の所に四頭だ。
そうなるとイエンスの方が騙されてペッカルに手を出したんじゃないかとも思われた。
とにかくセリを残して良かったのかはっきりわからないとビーサンは言った。
何しろ、ヴァニタス王がリガキスを治す気がないとしか思えないらしく、むしろリガキスを増やそうとしているようにも見えるらしい。
そうなるとリガキスを治せるセリは邪魔な存在になるんじゃないかとビーサンは言った。
「ビーサン。お前なぁそのことをなんでもっと早く言ってくれなかったんだ?それじゃセリを一番危険なところに置いて来たって事だろ?ったく!!どうすんだよ」
「ビビビィ~(でも、王恐い)リュリュリュクゥゥ(セリ魔法強い)」
「そんなの理由にならん!!」
「ギュギュウリュクル!(カレヴィ守ってくれる!)」
「ああ、あいつか‥そんな事より一刻も早くセリを助けに行かなきゃ」
俺の脳裏に銀や紫の髪の美麗な竜人だったヴァニタス王やカレヴィの姿が浮かぶ。
まさかな。セリはそんな女じゃない。で、でも、力尽くでということも?
俺はなんてばかなんだ!!
セリの言うことならって、あんな危険な男どもがうじゃうじゃいる危険地帯にセリを置いて来るなんてどうかしてた。
一刻も早くセリを連れ戻さなければ!!!
俺は屋敷に着くとすぐにライノスと連絡を取った。
すぐにヨールたちが出迎えてくれて守備を尋ねられた。
「ああ、浄化はうまく行った。シェルビ国のぶどう病も治っている。プロシスタン国の魔呪獣も獣人に戻っていると聞いた。でもなぁぁぁ~セリが」
「坊ちゃん、驚かないで下さいよ。知り合いのバリーが‥魔呪獣になったはずのバリーがひょっこり帰って来たらしいんです。彼は元の獣人に戻っていたそうですよ。でも、セリ様がどうしたんです?」
ヨールは嬉しそうだったがセリのことを聞いて俺を睨む。
違う!俺が何かしたわけじゃ‥‥
「でも、坊ちゃん。呪いは解けたんですよね?」
執事のトロンドが尋ねる。
「ああ‥」俺は大きくため息を吐く。
「それでセリ様とは?ご一緒じゃなかったんですか?」
俺は事のいきさつを説明した。ヨールは俺をボコった。
「坊ちゃん!セリ様を置いて帰るなんて!」
「ヨール落ち着け。坊ちゃんがそんな事をしたには訳があったに違いない。そうですよね」
「その時は知らなかったんだ。ヴァニタス王がセリを狙っていたなんて」
トロンドの必殺技アームロック!
「いた”た”た”たたぁぁぁぁ~やめろ!トロンド!!」
「あんたいい加減におしよ」
トロンドがやっと腕を解放してくれる。
俺は腕をさすりながらやって来たライノスに事情を話しイエンスやペッカルの事を調べるように指示を出す。
ビーサンは仲間を連れてくると飛び立っていった。直に辺境にいたドラゴンたちを連れて帰ってくるはずだ。
だからビーサンにはアンティ辺境伯たちも連れてくるように頼んでおいた。
ドラゴンを操れる獣人が必要だ。だが、イエンスがペッカルを捕まえている事で皇族と契約しているドラゴンたちは協力しない今がチャンスだろう。
ペッカルの居場所が分かれば一気にペッカルを助け出してドラゴン城を目指すつもりだ。
だが、ヴァニタス王をやっつける必殺手段が必要だな。
さて、どうする?




