84ドラゴンの王に会う
「ビビビィィィ~(到着しました)」
「グォォォ(ご苦労)」
私は切り立った崖にそびえる城の中に降ろされた。
すぐ目の前にはものすごく美しい男が玉座に座っている。
銀色と紫色の髪色は見たこともないほど美しく、こちらを見据える瞳は紫水晶のような瞳はキラキラ輝いているが恐い。
そしてマントからはみ出た見事に割れた胸筋に見惚れる。皮膚は人間と違って少し銀色がかっているがそれがまた美しい。
それにあれは鱗?頬の辺りにキラキラ光る硬質な皮膚がある。
『お前がセリか?』
いきなり脳内に声が響いた。
『あなたは誰?』
私は警戒を強める。こいつは誰?
『私はドラゴンの王、ヴァニタスだ。お前に頼みがある。手間は取らせない』
えっ?この人ドラゴン?ドラゴンって人型にもなれるのか。
そんな悠長な事を言っている場合ではないのに初めて見る竜人?と言えばいい目の前の美形を再度見つめた。
『おい、聞こえてるのか?』
ああ、そうだった。
『えっと、何でしたか?ああ、頼みがあるとか。それで私をいきなりこんな所に拉致したってわけですか?ずいぶんなやり方ですね!』
私は少し落ち着きを取り戻すと腹が立って来た。いきなり連れて来られて手間は取らせない?ですって!!
それに今はそれどころじゃないのよ。カイヤートを助けに行かなきゃならないんだから!!
『ほほぉ、威勢がいいな。だが、俺の手にかかればお前などひとたまりもないぞ』
ヴァニタス王が口を開くと口が大きく広がって牙をむきだした。
私を威嚇するつもり?
『そんな脅しが聞くとでも?』
私は腕を組んで背筋を伸ばす。とは言っても全然相手にならないほど小さいけど。
ヴァニタス王の頬が緩みヒクヒクと引き攣った。
するとすぐにヴァニタス王は柔らかな微笑みを浮かべた。
機嫌をこじらせるよりうまく使った方が得策と判断したのか?
「まどろっこしいから声を出すか‥実はな、セリ殿。この国の魔呪光を元に戻してほしいんだ」
いきなり実際に話しかけられた。ゆったりと構える王の顔は先ほどより数段緊張が取れているらしい。
あれ?頬にあった鱗みたいなのがなくなってる。かなりいきり立ってたのかな?
それに話せるなら最初から話せばいいのに!
それより何て言った?魔呪光を元に戻せって?
「ええ~?!それは出来ません。獣人はずっとこの呪いに苦しんで来たんです。やっと神様の呪いが解けたんですよ。それを今さら元に戻せだなんて無理に決まってます!」
「そこを何とか頼む」
大きな巨体が折れ曲がり頭を下げられる。
「そんな事されても困ります。あの‥何にお困りなんです?そんな事を言われるのは何か困っているからじゃないんですか?」
私には加護の力や浄化、治癒の力がある。
そのせいかどうかはわからないがドラゴン王は困っていると感じたのだ。
そこに別の竜人が入って来た。
「ヴァニタス王。お話があります」
「ビーサンか。言ってみろ!」
ビーサン?今、ビーサンって言ったよね?私はその人を凝視する。
ビーサンは黒髪の美青年で肌は前世で言えば黒人に近い感じだと思う。
王と同じように腰に布を巻き付けて碧いマントを羽織っている。
「あなたビーサンなの?」
「セリ様、こんな事して申し訳ありません。ですが、私達は魔呪獣がいなくなると困るんです」
「いいからビーサン。お前の考えを言ってみろ!」
ヴァニタス王がじれったいとばかりにビーサンに話を急かす。
「はい、実はセリ様は神から力を授かった聖女なのです。もしかしたら我々の病も治せるかもしれません」
ヴァニタス王が驚いて眉を上げる。
「それは本当か?あの病を治せるのか?」
「それはやって見なければわかりませんが、ヴァニタス王。あの力は本当に凄いんです!」
ビーサンは見た。
カイヤートとセリが空中に会ったバリアを見事に切り裂いて見事に呪いを打ち払うのを。
「では、セリ殿。その力で我が息子を直して見せろ。息子が治れば呪いを戻せとは言わない」
「いきなりそんな事を言われても困ります。息子さんは病気なんでしょうか?」
「ああ、生まれながらの病だ」
「でも、完全に治せるかは約束できませんよ」
「フフッ、気に入った。お前は正直な女らしい。早速治療をしてもらおう」
ヴァニタス王は最初に見た時の恐ろしい表情はすっかりなくなって柔らかな微笑みを浮かべ私を見た。
なに?この殺人級のイケメンは?
って言うか、私返してもらえるのよね?治療が終わったら‥
でも、今はこの竜人の機嫌を損なうかもと恐くてそんな事も聞けない気がした。
「でも、条件があります。途中で私の大切な人が落ちたんです。いえ、落とされたんです!ビーサンあなたわざと落としたんでしょう?」
ビーサンがビクッとして黙る。
「それより今は息子を見るのが先だ!」
ヴァニタス王がせかすように言う。
「いいえ、彼を探してここに連れて来て下さい。それが治療する条件です!」
ヴァニタス王がしかめた顔をするが相当困っているのだろう渋々ビーサンに指示を出した。
「ビーサン、そいつを連れて来い!」
「ビビビッ~(了解!)」
「これでいいだろう。さあ、早くしてくれ!」
とても断われそうな雰囲気ではなく私は仕方なく部屋に案内される事にした。




