82あっ、魔呪獣どうなったか調べなきゃ
私が落ち着きを取り戻すとカイヤートと一緒にシェルビ国を後にするとすぐにスヴェーレに戻った。
もちろんイルも一緒だ。
イルの中にもうお兄様はいないけどこれからも家族として一緒にいるつもりだ。
ただ、お兄様じゃないせいでビーサンに乗るときひどく恐がって大変だったけど。
ごめんねイル。
リンネさんたちに出向えられる。
「セリ、大丈夫だった?」
心配そうなリンネさんにちょっと驚くが、そうだ。プロシスタン国は今度の満月にならないと魔呪光がないんだ。だから毒を浄化出来たってわからないはずだ。
カイヤートが事情を説明して二つの国の毒をすべて浄化出来た事を話す。
「それは本当なの?ううん、あなた達を疑うわけじゃないけど、にわかには信じられなくて」
「ええ、リンネさんのおっしゃることはよくわかります。私だって信じれなかったんですから、でも、空を見て下さい」
私はビシッと空を指さした。
晴れ渡った空にはオロール光の帯が広がっている。
昼間なのでその色は薄く感じるが確かに翠色や赤色、オレンジ色などの色が空にあった。
「あれがオロール光です。シェルビ国でも、いつも見られるわけじゃありませんけど、きっと今日は浄化のせいでオロール光が多く発生したんだと思います。それにここはシェルビ国と隣接してますから余計に」
私の話の途中でリンネさんは教会の中に走り込んでいた。
すぐにみんなを連れて戻って来た。
「みんな見て。セリとカイヤートがとうとう魔呪毒を浄化したのよ。あれを見て。美しいオロール光が見えるでしょう?ずっと昔にはこの国にもあったと言われていたあの光が戻って来たのよ!」
興奮しているのかリンネさんは早口だ。
すらりと並んでシスターや子供たちが空を見る。
コニハが尋ねる。
「これってあの呪いはなくなったって事?」
「ええ、そうだよ」
「じゃあ、私のお父さんも元に戻るの?」
コニハは当然のようにそれを聞いた。
「ああ、そっか。そうだよね。カイヤート大変な事を忘れてたわ。北の魔の森に行かなきゃ」
「でも、浄化出来たならもう、大丈夫じゃないのか?」
「もう、それを確かめなきゃ!さあ、行くわよカイヤート。リンネさんそう言う事なので行ってきます。コニハもう少し待っててね。きっとお父さんは元に戻るわ」
「セリ先生ほんと?」
コニハの目にはすでに涙が溜まっている。
「うん、本当よ。神様が言ったんだから、魔物になった人も元に戻るって、コニハのお父さんはいくつ?」
「えっと‥三十‥わかんない」
「それなら大丈夫。ずっとお年寄りだったら無理かもしれないって言われたけどコニハのお父さんは大丈夫」
「うん、わかった」
私はカイヤートに「カイヤート、すぐに出発しましょう」と言った。
「ああ、そうだな。元に戻った人達をちゃんと家に帰れるようにこれから色々忙しくなるな。先に魔の森に行くか?それとも城に寄ってクラオンたちに支持を出して置くか?」
「取りあえず北の魔の森に行ってみましょうよ」
「ああ、そうだな」
カイヤートはビーサンを呼んだ。
ビーサンはすぐに現れなかった。
「あいつ何やってんだ?いつもならすぐに来るのに」
「もう、カイヤートったら、ビーサン食事でもしてるんじゃない?いつだっていきなり呼び出しって可哀想よ。少し待ってましょうよ」
「そうか?あいつの飯はすぐ終わると思うが‥」
そんな事を言ってビーサンが来るのを待った。
その間に私達も食事を済ませる。
やっとビーサンがやって来た。
「おい、ビーサン。遅かったな。何かあったのか?」
「ビビビッ~(な、何もない)」
いつものビーサンらしくない。何かこう戸惑うような仕草。
「まあ、いいけどな。俺いつもビーサンをいきなり呼び出してるし、いつもありがとうなビーサン」
カイヤートはビーサンの首を何度もさすってやる。
「ククール(と、とんでもない)」
「やっぱ、お前いい奴だよな。これから北の魔の森まで飛んでくれるか?魔呪獣がどうなったか調べたいんだ」
「グルゥ~(わ、わかった)」
何だかビーサンの様子がおかしいと思うものの、一気に魔の森に行くには一番早い手立てもあって私達はビーサンに乗って飛び立った。
「おお、やっぱりお前はすごいな。ほら、セリもうあそこに見えて来たのが魔の森だ。ここからだと人の影なんかわからないな。ビーサン頼んだ。あの少し開けた場所に下ろしてくれ。後は呼ぶまで自由にしててくれればいいからな」
カイヤートは降りる場所をビーサンに指示する。
「ビィィィ~(ああぁぁぁ)」
甲高い声を上げるとビーサンが突然身体を傾けた。油断したカイヤートの身体が宙に投げ出される。
「あっ!クッソ!セリ、つかまってろ!」
カイヤートはぐっと身体をひねってビーサンの翼を掴もうとした。
途端。ビーサンはそれを拒むように翼を羽ばたかせる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ~」
カイヤートの悲鳴が響き渡り私は必死に手を伸ばすが全く手は届かない。
カイヤートはそのまま真っ逆さまに魔の森の中に落ちて行った。
「カイヤート!カイヤート待っててすぐ行くから~!!ビーさんお願い。カイヤートが落ちた辺りに降りれる?」
私はビーサンに聞く。
「ククー。ルル、グルルル~(セリを連れて来いって)」
「えっ?どういう事?」
ビーサンはそれ以上何も言わず一気に空に上昇して行く。
「ビーサン?どこに行くつもり?私をどうするつもりなの?」
「グルグ~グクルゥゥ~(ドラゴンの王の所行く)」
「それって竜帝って事?でも、どうして?」
「ギュルゥ。ググリュゥゥ~(わからない。連れて来いって)」
ビーサンはまだ若いドラゴンだと思う。竜帝に逆らえるはずもないのだろう。
でも、どうして?疑問は膨らむばかりで私はただビーサンにしがみ付いているのが精いっぱいだった。




