78お二人ほんとに神です?1
『い~ひ~む~!!』
地を這うような苦しそうな声。地響きがとどろいて地面が揺れる。
「きゃぁ~、カイヤート地震よ」
「セリ、俺に掴まれ!」
私達は大神殿から逃げようとした。
するといきなり黒い靄が立ち込め、その中からアード神様が現れた。
とは言っても実態ではなく、向こうが透けて見える。
多分、私達の頭の中になるイメージを具現化したようなものだろうと思うが‥
『アード!何してんのよ。あんた私がいないからってずいぶんな事をしてたのね』
そこにイヒム様の姿も現れた。ちょうど彫像が立ちあがったくらいの大きさ。ってかなり大きいな。
でも、実体はない。あくまでも虚像のようなものみたい。
やっぱりイヒム様。神様だぁ。思わず心の中で手を合わせる。
『イヒム?イヒムなのか?お前一体どこにいた?俺がどんな気持ちで今まで過ごして来たかわかるか?』
『はっ!?何よ。あなたが私を裏切ったんじゃない!今更どんな気持ちだったかなんて知るわけがないわよ!』
私達は思わずそこに立ち止まる。
何が始まるの?これってまるで夫婦喧嘩のような会話じゃない。
それにしてもこの国が出来てもう、数百年が経つと言うのに今の話じゃつい最近喧嘩別れしたみたいな言い方なんだけど‥
それに、イヒム様言葉使い変わってません?
目を凝らし耳を澄まして二人の会話に聞き耳を立てる。
「セリ?」
「カイヤートいいから黙ってて!」
『だからあれは、俺が悪かったって言っただろう?何度も謝ったじゃないか。それなのにお前は人間の男なんかと‥おまけに赤ん坊まで』
アード神様、それって‥しみったれた親父みたいなんですけど。
『だからって、あの後その子供を獣人にしてプロシスタン国には呪いまでかけて、それだけじゃない。私達が作ったシェルビ国にも魔粒毒なんて恐ろしいものを‥あなたを見損なったわ!』
『お、俺だってそんなつもりじゃなかった。でも、お前はいなくなって何にもする気力も起きなくて‥だから』
ああ、良くある男の浮気で妻が家出ってパターンか。イヒム様、もう離婚すればよかったのよ。こんな浮気男。いや浮気神様なんか!!
『だから?こんなに人間が苦しんでいると言うのに貴方は何も感じないって言うの?それならもう天空のかなたに消えてしまえばいいのよ。それに‥私が本当に人間の子を宿したと思ったの?私があなた以外の男を受け入れるとでも?』
はっ?イヒム様‥それって‥それって‥もしかして人間と浮気はしていなかったって事です?
目の前で繰り広げられる愛憎劇に思わず感情がググっと入り込む。
もしかして‥まさかね。あれからうん百年ですよ。
「あの‥」
思わずイヒム様に問いかけようとするがカイヤートに口を塞がれる。
「セリ、今は出しゃばらない方がいい。黙って様子を見よう」
「‥ええ、そうね」
まあ、下手に口出しして力任せに薙ぎ払われたりしたらひとたまりもない。
何しろ実体はなくても大きいし神様だ。もしかしたら透き通た身体からすごい力を出せるかもしれないんだもの。
ふたりの神様の顔を見上げる。
アード神様の顔は蒼白になっていて。
イヒム様の顔は怒りで目が吊り上がっていて。
『い、いひむ!それはどういう事だ?』
『その唐変木な頭で考えたら?』
アード神様はむっと口を引き結んで眉間に皺寄せる。
そして、目を見開いた。
『まさか‥イヒム。お前は浮気してないのか?そうなのか?お前は俺意外の男とは何もなかった。そう言う事なのか?』
ふにゃりと顔が緩むアード神様。
吊り上がっていたイヒム様の目がふわりと緩んで笑みをこらえるような顔になる。
『あ、当たり前じゃない。そんな簡単にあなた以外の男に身体を許すと思った訳?』
今度は腰に腕を当ててエッヘンのポーズ。
何なのこれ?もしかして仲直りしたの?
照れ臭いのだろうか、アード神様が頭をポリポリかいて。
『でも、俺は浮気をして‥それでお前はすごく怒って‥それでいなくなったと思ったら人間の男を連れていた。だからてっきり‥その後、お前はお腹が膨らんでいたからてっきり‥』
自分がとんでもない間違いをしていたことに気づいたらしいアード神様の顔は風船がしぼむような勢いでクシャクシャになって行く。
『あれは怪我をして弱っていた人間を助けただけで、お腹の子供はあなたの子供に決まってるじゃない!あなたは自分がそうだったからって私を疑ったのよ。私は腹が立ったわ。だからあなたには子供の事を話さなかったのよ!』
うんうん。わかるわぁ。その気持ち。
イヒム様は自分の気持ちを素直に話していると思う。
そりゃ無理ないわよ。いきなり疑われたら、おまけに赤ちゃんの事までだもの。
もう、イヒム様の気持ちがダイレクトにわかって思わずアード神様に文句を言ってやりたくなるがそこはぐっと我慢。
『イヒムすまん。俺はずっと後悔して来た。ずっと、ずっとお前が恋しくて堪らなかった。お前のいない世界はほんとに味気が無くて何もやる気になれなくて‥イヒム帰ってきてくれ。俺ともう一度やり直してくれ。頼む』
すかさずアード神様が頭を足の指に着くほど下げる。
ああ、アード神様も悪かったけど。まあ、自分が悪いとそんな風に考えたのも無理ないか。
それにイヒム様も、まだアード神様が好きなんでしょう?もう、許してあげたら
って言うかすごい柔軟な体。
『まあ、考えてもいいわ。でも、条件がある。二つの国の呪いを解いて、今すぐに!』
イヒム様はそこはビシッと言ってくれた。さすがです。イヒム様本当にありがとうございます。
私の胸は感謝の気持ちでいっぱいになった。
『ああ、イヒムが、帰って来てくれるなら何でもする』
『いいわ。あなたがちゃんと呪いを解いて元の私達が最初に作った時のような国になったら私はあなたの所に帰るわ。もちろんシェルビ国もプロシスタン国もよ』
イヒム様がアード神様のそばに近寄った。




