【神託】で選ばれた真実の愛の相手がくそなんですけど

７６あの、宝剣をですか？

　私は集中してイヒム様を呼ぶ。

『イヒム様お願いします。聞きたいことがあるんです。出てきて下さい』

　何回かそうやってイヒム様を呼んだ。

　『セリか。一体どうしたんじゃ？』

　『イヒム様？はぁ、良かった。返事がないから心配しましたよ。どこか具合でも悪いんです？』

　『いや、ちょっとアードの所にな』

　『えっ？イヒム様ってアード様とは仲直りしてるんです？』

　『いや、長い事話もしとらん』

　『それなのに？』

　『ああ、お前たちが困っていると知ってアードの機嫌でも取ればこのタチの悪い呪いを何とか出来るんじゃないかと思ってな。私もこれまではこんなに酷いとは思ってもいなかったんじゃ。すまんのぉ』

　『イヒム様。そこまで私たちの事を？あの‥実は大変なんです』

　『そう言えば何か困り事か？』

　『はい、私たち魔力が使えなくなったんです。シェルビ国に魔粒毒が発生して浄化に来たんですけど、全く魔力がないみたいで、もう、どうすればいいんです？』

　『ここはシェルビ国なのか？‥‥長い間この国を見ておらんかったからなぁ』

　『はぁぁぁ～』

　しばらくイヒム様は静かになった。

　『そうだ。セリとカイヤートは証刻印の番じゃったよな？』

　『はい、そうですけど』

　『原因はそれじゃろうな。証刻印が現れるという事は究極の愛のカップル。あの初代の皇王と同じ力を持ったという事じゃろ？お前たちはアードの嫉妬の対象になったと言うことじゃろう』

　『ええ、どういう事です？』

　『あいつはなぁ、初代の皇王はいわば私と人間の間に出来た子だと思っとる。アードからすれば憎い相手。それと同じ刻印を持ったお前たちだ。だからお前たちの魔力を出せなくしたんじゃろうなぁ。ったく、あいつと来たらいつまで‥』

　「そんな！酷いです。そうと分かっていたらカイヤートなんかと！」

　「セリ、それは酷いだろう？お前は俺の運命の番なんだ！今更取り消しなんか出来ないからな！」

　「誰もそんな事思ってないわよ！でも、シェルビ国を救えないなんて！」

　『まあ、落ち着け、他にも手はある。大神殿にまだあの宝剣はあるか？』

　『はい、確かイヒム像の胸に突き刺さったままかと』

　『はっ、まだ私の胸に？二人でその宝剣を抜いてそれをアード神像に胸に突き刺せ！』

　『そんな事出来ませんよ。あの宝剣は未だ抜いた人がいないんですよ！いくらイヒム様だからって無理です！』

　『その力はお前たちが持っている。さあ、急いで大神殿に』

　『ちょ、ちょっと待って下さい。アード神像に剣なんか刺して大丈夫なんですか？』

　『ああ、任せろ。あいつは一度痛い目にに合わせなきゃ分からん！いいから心配するな』

　『分かりました。でも、本当に大丈夫なんですよね？』

　『セリしつこいぞ。しつこい女は嫌われるぞ。さあ、早く行け。こら、カイヤート。こう言う時は俺に任せろくらいの事を言わんか！ったく、男だろ！』

　『イヒム様酷いですよ。俺会話に入る間なんか無かったんですよ。もちろんセリの事は命に変えても守りますけど、ほんとに大丈夫なんですよね？』

　『お前ら！二人揃ってしつこいぞ！いいから早く行け！！』

　急いで叔父様に行き先を告げる。

　「叔父様。私達は大神殿に行ってきます」

　「大神殿に？何をする気だ？」

　「何だかよくわかりませんがとにかく手立てがあるみたいですから、行ってきます」

　「わかった。こっちは何とかやってみる」

　「お願いします」

　私はそれだけ言うと突然突風が吹き荒れた。

　「きゃぁぁぁ〜」

　イヒム様の力で私達とイルはあっという間に王都の大神殿に転移した。

　「カイヤート。イヒム像はこっちよ！」

　大理石の太い円柱を通り抜け神殿の中に急ぐ。

　その間も魔粒光が王都の空を覆い魔粒毒が降り注いでいるのがわかる。

　高台にある神殿から街を見下ろせば幾人もの人が逃げ惑う姿が見えた。

　早く何とかしなければ‥気持ちは焦るが魔力は使えない。今はイヒム様を信じてあの宝剣をアード像の胸に。

　気持ちが急いて足がもつれる。

　「いたっ！」

　「セリ！大丈夫か？」

　カイヤートがさっと私を抱き上げてくれる。

　「セリ一人じゃない。俺が付いてる。きっと出来るから安心しろ！何しろ俺達にはイヒム様が付いてるんだからな」

　「うん、そうだよね。イヒム様が‥カイヤートありがとう」

　「ばか、セリは俺の番なんだ。こんなの当たり前だから‥」

　なんだかな。この状況でカッコいい言葉をサラッと言ってしまう彼。頼もしいなって改めて思ってしまう。

　私達はアード神像とイヒム神像の前に着いた。

　イヒム神像は頽れるように座り込んでアード神像は立ってそれを見下ろしている。

　そして今もイヒム神像の胸には宝剣が突き刺さったまま。

　「カイヤートあれがイヒム像よ」

　「あれが‥何だかひどいな」

　「ええ、でも誰も抜くことが出来なかったらしいから」

　二人でその像に近づこうとした時だった。

　「セリーヌ！」

　突然後ろから私を呼ぶ声がした。

　「誰？‥えっ？うそ‥」

　そこにいたのはユーゴ殿下だった。

　漆黒の髪。金赤色の瞳。その姿は生きていた頃と全く同じで。

　「会いたかったセリーヌ」

　ユーゴ殿下が私に近づいて来る。

　「誰だ？」

　カイヤートが警戒したように尋ねる。

　「お前が例の犬っころか」

　ユーゴ殿下はカイヤートに蔑むような見下した視線を向ける。

　私はまだ混乱している。だって、ユーゴ殿下は死んだ。確かにこの目で見た。

　それにカイヤートに力を授けるとは言わなかったけど確かに天に昇って行った。はず。なのに？