74お子様ランチ
あれからカイヤートはイエンス様の執務を騎士隊の仕事が忙しいとはぐらかしながら城には行ってない。
まあ、彼にその気がないんだから。何とか皇王陛下が折れてくれるといいけど。
「チャーレ、ミコ。これをこねて」
「は~い。セリ先生って何でも出来るんだね」
私は一緒にパンだねをこねながら話をする。ここでもいつの間にか先生って呼ばれている。
もう、カイヤートがセリ先生って言ったからよ。まあうれしいからいいんだけど。
トドンが発酵を手助けしてくれるのでパンだねを先に仕込んでおいて良かった。
あれから数日が過ぎていた。
翌日から私は子供たちと一緒に色々な事をやることにした。
外遊びで泥団子を作ったり、鬼ごっこをしたり。部屋の中ではカード遊びでババ抜きや七並べを楽しむ。
ババ抜きは小さなピョルンでも何とか楽しめて良かった。
七並べはカイヤートも混じってシエメンとマジで勝負って感じで、男ってどうしてすぐにむきになるんだろう。
まあ、楽しいけど。
今日は子供たちが楽しみにしているお子様ランチを作るつもりだ。
ミーナさんも一緒に子供たちを手助けしてくれる。
「何でもじゃないわよ。でも、色々やっているうちに出来るようになったかな」
「私もセリ先生みたいに大きくなったら子供たちのお世話がしたいな」
「チャーレなら出来るわ」
「うん!」
「そろそろいいかも‥次はそのパンだねの形を整えてね」
「は~い」
「ピョルン、大丈夫?」
「ぼく、ちゃのしぃでしゅ」
「あらあら、お顔にパンだねが‥」
「ふゅふゅ、ありがとしぇんしぇぇ」
まじ、かわいい!!
小さなお手伝いが六人張り切っている。いいなこういうの。
「セリ先生、こっちは任せて下さい」
ミーナさんがそう言ってくれたので私は調理に取り掛かる。
料理長のマッソンさんにはトマトソースをお願いした。
「セリ先生、トマトソース出来上がったぞ」
もう、マッソンさんまで先生って‥まあ、いいかっ!
「は~い。次はパスタをゆでてもらっても?それが終わったら子供たちのパンをオーブンにお願いします」
「あんた意外と人使い荒いよな。ハハハ。まっ、子供たちが喜ぶんだ。いいけどよ」
マッソンさんは楽しそうに笑う。
私は肉をミンチにしてハンバーグの準備をする。
後はポテトフライを揚げてと。
ハンバーグを焼きながらポテトを揚げる。
「ふ~ん。セリ先生って意外と器用だよな」
しれっと隣に来て私がかき混ぜていたポテトを引き受けてくれる。
ばたばたとカイヤートが走って来た。
「マッソンお前近い!しっしっ!」
「ハハハ。番にはかなわん。はいはい」
「カイヤート。邪魔!用がないなら出て行って」
カイヤートの耳が一気にうなだれる。
「セリ!俺はみんなが使うブランコが出来たって知らせに来たんだ」
「えっ?そうなの。あなたがブランコを?」
「ああ、でも俺は邪魔なんだろう?」
「邪魔じゃないわよ。でも、マッソンさんは私を手伝ってくれてるんだから、あんな言い方よくないわ」
「だってセリのそばに‥」
「セリ先生。旦那様の言うことは間違ってないですから、番って言うのはこんな年寄りでも男は男。俺が気を付けるべきだったんで」
「そう?マッソンさんがいいなら。でも、カイヤートやきもち焼きすぎよ。私があなたを好きだってわかってるでしょう?」
突然カイヤートが私に抱きついた。
「セリ!俺も愛してる!」
「ちょ!わかったから‥ハンバーグが焦げるから‥あぁぁぁ~もっ、あつっ!」
手をずらした拍子に鉄板の端っこに指が触れた。
「セリ?」
勢いよく身体を抱かれて指を水桶の中に浸けられる。
気持ちはうれしいがやり過ぎだ。尻尾が床にびたっと張り付いてかなり落ち込んでいる。
「もう!カイヤートのせいだから!」
「うん、ごめんな。俺が‥でも、離してやれない」
そんな彼が愛しくて仕方がない。
「離れたりしないから」
幸せな時間が流れた。
さあ、いよいよお子様ランチの完成。
ワンプレートの上には小ぶりのパン。ほんとはチキンライスがいいんだけど。
ハンバーグにスパゲティ(もちろんナポリタン)ポテトフライに可愛く飾り切りしたリンゴやオレンジも添える。
そしてメインはみんなが書いた小さな紙をピックに巻きつけて旗にしたものをパンの上に立てた。
「はい、お待たせ。お子様ランチのかんせ~い」
「「「「「すご~!!!」」」」」「しゅごい!」
子供たちが目を輝かせてプレートを見る。
すぐに旗が自分の書いたものだと気づいてさらに盛り上がる。
「先生、これ、私が書いたやつだよ」
「俺のも」
「僕もでしゅ」
「ええ、みんなが書いたものを旗にしてみたんだよ。どうかな?」
「すごくいいな」
と言ったのはカイヤート。
「カイヤートったら。さあ、みんな冷めないうちにどうぞ。カイヤートの分もあるから心配しないで」
「知ってる」
さっと自分の席に座る彼にみんなより余分にスパゲッティも運んで来た。
イルもいつの間にかダイニングに現れた。
イルにもひき肉だけのハンバーグを用意してある。
『お兄様も食べるでしょ?』
「にゃぁあ~ん(もちろんだ)」イルはすぐにハンバーグに貪りついた。
「うまそう!」
何だかカイヤートが一番喜んでいる気がしないでもないが。
その日の午後叔父様から手紙が届いた。
叔父様には王都に来た時とカイヤートと婚約した時に知らせを出してあった。
【セリーヌ。そちらでも暮らしはどうだ?元気に過ごしているか?こんな事を頼むのは心苦しいんだが、スコット辺境伯にかなり大きな魔粒光が現れた。私達だけではどうにも駆除しきれそうにないんだ。悪いが手を貸してくれないか?すまん。なるべく早めに連絡を頼む】
大変だわ。
私はすぐにスコット辺境伯領に向かうことを決断した。




