71指輪
私とカイヤートは食事が終わると支度を始める事に。
どこからとなくイルが現れる。
足元にすり寄って「にゃぁぁ~(さっきは悪かった)」
『私こそごめんなさい』
お兄様はカイヤートとのことを許してくれたみたいだった。
さっきダイニングでの出来事を見てたのかも。
『いよいよだなセリ。お前大丈夫か?』
『緊張してるわ。でも、やるしかないし。カイヤートがそばにいてくれるから』
『ああ、あいつはいい奴みたいだからな。俺がこんなじゃなかったら‥』
私はイルを抱き上げて背中にすりすりする。
『そんな、お兄様がいてくれるだけでどれほど心強いか。ここで大人しく待っててね。まだ、ザンクの花は残ってるから、絶対に外には出ないでよ』
もしもイルが毒にと思うと背筋に冷たいものが伝うようだ。
「にゃにゃにゃん(わかってる)」
「うん」
ヨールさんが聖女の服を持って来た。
この衣装はカイヤートが用意してくれていたものだと聞く。
美しい刺繍が施された聖女服にうっとりする。
シルクの真っ白い生地に金糸で施された刺繍はこの国の国花の月光美人の花が描かれている。
あの花が国花だったなんて。
聖女服はホルターネックで背中や腕は露出されているがそれに重ねるように美しいレースの上衣を重ねることで品のある聖女が出来上がった。
何だかな。
昨晩は勢いであんな事になったけど、ここまで用意してくれてるとは思ってもいなかった。
うれしい気持ちと戸惑う気持ちの狭間にいるみたい。
このまま彼と結婚?みたいな事になるのかな?
日本だと、もっとこう時間をかけて準備する。いや、シェルビでもそうだったけど。
私はこの状況を意外と喜んでいるらしい。
「セリ様、これを」
「あっ、はい」
ヨールさんが差し出した手袋を手に取る。
総レースのシルクの長い手袋。
それをするするとはめる。
椅子に座らされて今度は髪を整えられる。
ヨールさんは手慣れたように髪を結って行く。
髪は両サイドを三つ編みにしてふたつに分けてまとめられ月光美人の花びらが添えられ後れ毛が少し垂れていると言う魅惑的な聖女になった。
首には琥珀色のネックレスと耳にも同じ色のイヤリングをはめた。
これはカイヤートからつけて欲しいと言われたもの。
「セリ様、どこから見ても惚れ惚れするような聖女です」
「そんな、ヨールさんの腕がいいからです」
「さあ、坊ちゃんがお待ちです」
そう言われてどんな顔をして会えばいいのかいきなり緊張する。
ヨールさんはそんな私の気持ちを知ってか何も言わずにさっさと私の手を取って案内してくれる。
もどかしい気持ちなのに、早く会いたいと思う。
カイヤートの書斎に入った。
窓辺に向いていた顔がくるっと回ってその金色の瞳が私を捉える。
「せ、り‥」
そう言って彼は固まった。
彼は黒い騎士隊の正装で髪もビシッと整えている。耳が尖って緊張してるのかな?いつもはない勲章がいくつもつけられていてそんな姿もいいなと思う。
もう、かっこよすぎ!
彼に見とれていたらカイヤートが私の前に跪いた。
差しだされた手には月の光を閉じ込めたような美しい指輪がある。
も、もしかして‥
「セリ、俺、指輪なんか用意していなくて、でも、もし結婚するならこの指輪を妻になる人に贈ろうと思っていたんだ」
カイヤートは頬を染めながら指輪のことを話すとそっとわたしの薬指に指輪をはめてくれた。
この宝石は特に希少なムーンガーネットと言う石でカイヤートが生まれた時に皇王から彼のお母様に送られたものらしい。
「俺と結婚してほしい」
「そんな!いきなり言われても」
「いやか?」
落胆した彼の耳がしゅんと寝る。
「いやとかそう言うんじゃなくて今すぐ結婚なんて!」
ほんとはうれしい。けど展開が早すぎる気が。
「今すぐじゃない。俺はまだ儀式も終えていないから‥でも、俺の婚約者になってほしいんだ」
「もちろん受けるわ」
カイヤートは震える手で指輪をはめてくれた。
月色の指輪が私の薬指で輝く。
「うれしい」
はぁぁぁぁと大きく息を吐いたカイヤート。
もう、緊張してたのね。意外とかわいい。
すかさずヨールさんが文句を言った。
「もう!坊ちゃんは女心がわかっていないんですから、セリ様を見てどう思われたんです?」
「そ、そんなの綺麗すぎて、もう可愛い。俺の番、今すぐ抱きたい!」
ヨールさんが彼の耳をギュッと引っ張る。
「イテテテ!ヨール何すんだ!」
「セリ様、申し訳ありません。私の教育がなっていませんで‥」
カイヤートがはっとして「セリ、すごく綺麗だ。ドレス選びなんてした事なくてヨールに頼んで良かった。それに指輪も受け取ってくれてありがとう。セリのこと生涯大切にするって約束するから」
一瞬、ドレスはヨールさんが選んだのかと思ったが、まあ、彼に任せたらとんでもないドレスだったかもと思いながら。
「ええ、私こそよろしくお願いします」と言葉を添えた。
私はほっとするが、すぐに今日の事が心配になる。
そっとカイヤートが肩に手をかけて私を包み込む。
温かい体温が伝わってその温もりに思わず身を任せる。
「それじゃ行こうか。セリは何も心配しなくていい。大教会の表に聖なる祈りを捧げる舞台が作ってあるからそこで二人で浄化をすればいいだけだからな」
「でも、月がかけるのは止められないのよ。みんな浄化に失敗したって思うんじゃ?」
「いや、あれは無理に決まってるだろ。浄化が行われたって言う事実が必要なんだ。王都の獣人は浄化が行われて呪いがある程度浄化されたと思ってくれればいいんだ。そうすれば暴動なんかの騒ぎが起きる確率が少なくなるだろ?」
金色の瞳はどこまでも優しく私を見つめる。
「ああ、そう言う事なのね。わかったわ。じゃあ大きな魔法を展開するわよ!」
ほんとにこの獣人ったら。どこまで私の気持ちを汲んでくれる。
あっ!もう!!
「カイヤート。大好きよ」
「セリ!もう、このまま部屋に篭ろうか」
私、余計なことを言った?




