68兄イエンスと対峙(セリ・カイヤート)
翌朝、いよいよ月喰いの日がやって来た。
薄っすらと光が差し込む朝の気配がした。
私はまどろみから目覚めるとぐっと後ろから抱き込まれていた。
「セリ‥起きたのか?」
気づかれた?
何で私が身じろぐのよ。だってぇ~彼ったらもう激しんだから。私は初めてなのよ。これでも前世の記憶があったからまだ、対処で来てるって言うか‥
昨晩の激しい交わりを思い出して顔が熱くなる。
ぐるりと身体を反転させられるとデレデレの顔をしたカイヤートの顔と鉢合わせした。
「おはようセリ‥」
「お、おはようカイヤート」
ぐっと引き寄せられて唇を重ねられる。
「うっ、ぐぅ!」
「はぁ~、朝から番の匂い。やばっ!」
すでに彼の股間が反応しているとわかる。でも、もう勘弁して。
「セリ‥欲しい‥」
股の間に入り込む彼の片足。
「カイヤート。私はすご~く疲れてるの。今は無理!」
しゅんとなる耳。でも、さすがに番の言う事には逆らえないみたい。
「わかった。無理をさせたもんな。セリはゆっくりしてて。ちゅっ」と優しくキスされた。
「はい‥」
カイヤートはすぐに気持ちを変えてベッドから出て行った.
そこにイルが入って来た。
昨日は危険だからと嫌がるイルをちょっと魔法を使って部屋に閉じ込めたままだった事にようやく気付く。
うわっ、お兄様怒ってるわよね。
『セリ、お前な!』
『お、お兄様いつここに?』
『ったく、お前が閉じ込めるから出るのに苦労したんだからな』
『仕方がなかったのよ。お兄様があの毒に耐えれると思わなかったんだから』
ザンクの花の猛毒は騎士でさえも耐えられなかったのよ。お兄様は猫。そんな小さな体で耐えれるはずがないじゃない。
『ああ、だけど帰ったなら出してくれても良かっただろう?どれだけ心配したか。声がして気配は屋敷にあったからまだ辛抱できたがもう少しで屋敷をぶっ壊すところだった』
『ごめんなさい』
『ああ、わかったならいいんだ。それで、その様子じゃカイヤートとは仲直りで来たんだな。って言うか。セリお前!もしかしてあいつと?』
『えっ?それは、でも、彼は番だし心配ないわよ』
『だからと言って婚約もまだなんだぞ。一体何を考えているんだ!!』
イルは相当怒ったらしくふてくされて部屋を出て行ってしまった。
まあ、常識的に考えても昨日の私はおかしかった。
でも、許してしまったものはもう取り返しはつかないじゃない。
もう、うじうじ考えるのはやめ!
カイヤートを信じるって決めたんだから。
でも、今朝だって婚約しようとか言われなかった。
はぁぁぁぁ~さっきまで信じようって思ったくせに。
しっかりしなさい私。
*~*~*
朝から屋敷は騒々しかった。月喰いの日が来たんだ。無理はない。
でれっとしてないで気持ちを引き締めろ!俺!!
昨晩の甘い一夜をゆっくり思い出す暇もなく俺は現実に引き戻される。
セリが言ったようにザンクの花のせいで魔物被害が出るなら今日こそ魔物になる獣人は出ないはず。そうだといいが。
ライノス達騎士隊も月喰いの日に備えて王都の警護に当たる手はずになっている。
セリを牢から連れ出した事をすでに兄は知っているはず。
きっとここにセリを連れ戻しに来るはずだ。
来るなら来てみろ!俺とセリは番った。もう誰も手出しは出来ないんだからな。
いけないと思うが顔は自然とにやける。
嬉し過ぎると誰しもこうなるのか?だよな。
獣人は番った相手を無理に引き離す事は出来ない。例え皇族でもそれをすれば獣人の物凄い反感を買う事になるからだ。
まあ、それもあってどうしても昨晩セリと番いたかった。
一度と思っていたけど、あんなに‥ぐふっ!やばっ、また鼻血でそう。
いやぁ~、まさかあんなに暴走してしまうとは‥セリがぐったりしてたわけだ。
もう少し抑えなけりゃな。セリは人間だもんな。
ヨールはそんな事情も気づいていたんだろう。うまくセリを説得してくれたもだ。
何度思い返してもセリの可愛い声を思い出して俺は相当にやけていた。
そして予想通り兄がやって来た。
今までにやけていたが兄を見た瞬間怒りがこみ上げた。
「カイヤート。貴様、聖女セリ殿を拉致した事はわかっている!すぐにセリ殿を出してもらおう!」
おい、何言ってんだ?自分がセリを監禁したくせに。でも、そんな挑発に乗り気はない。
猛り狂ったような兄を侮蔑するようにしらっと言葉を紡ぐ。
「これは兄上。何事です。こんなに朝早くから、今日は月喰いの日。城で待機していらっしゃらなくていいんですか?」
「貴様!いいからセリを連れて来い!城の大教会で浄化をして頂かなければならないんだ!」
はっ、俺の番。呼び捨てかよ。
拳に力がこもるが冷静になろうとぐっと息を吸い込んだ。
その時無意識に手の甲を口元に近づけた。俺は目を見張る。
これは‥番の印の証刻印じゃないか。くぅ~、やっぱり俺達は本物の絆で結ばれている。
はぁ、やばいやばいやばい。うれし過ぎて脳の血管がちぎれそう。
いいから、落ち着け。
「まあ、そんなに慌てなくてもちゃんと浄化に行きますよ。セリは昨日のお勤めで疲れているんです。もう少し休ませたら大教会に行きますので」
「おい、カイヤートを拘束しろ!」
兄、イエンスは一緒に来ていた騎士隊員に声を荒げる。
「ははっ。カイヤート殿下。一緒に来ていただきます」
「ったく。人の話が聞けないって言うのは‥」
俺は手のひらで雷魔法を練る。
それを騎士隊員の足元に投げつけるように放る。
「ビカッン~!!」
小さな稲妻が足元で弾け飛ぶ。
「うわっ!何だこれは?」「魔法か?」「殿下が魔法を?」
「カイヤートどういう事だ?」
兄が鬼のような形相で尋ねた。
「ええ、実は俺も魔法が使えるようになったんです。ちなみに俺とセリは番ですので浄化には二人で行きます。どうかご安心下さいと皇王にお伝えください」
「で、ではお前は月喰いの日の浄化が出来ると言うんだな?それは間違いないんだな」
「それは確約できませんがかなりの確率で魔物の発生は抑えれるかと思います」
月喰いの呪いで一番恐れられているのは獣人が魔物になる事だ。
いつも自信たっぷりの兄のこめかみに欠陥が浮き出ていてギシリと歯を噛む音までした。
「ふん、こざかしい奴め。お前ごときが俺にかなうなど思うなよ」
「兄上。御心配には及びませんよ。私は王になどなるつもりはありませんので」
兄は散々負け惜しみを言いながら俺の屋敷から出て行った。
それはこっちのセリフだけどな!




