67結ばれる*
私はすぐにヨールさんに案内されて彼の部屋の風呂に入った。
「ここで入るんですか?」
ヨールさんは柔らかく微笑む。
「はい、今部屋から出るのは少し無謀といいますか‥坊ちゃんはすっかりその気になられていて‥あっでも、セリ様がどうしてもいやだとおっしゃるなら」
「ああ‥考えてみる」
「ありがとうございます。獣人の番はそれはもう特別な思い入れがございますから‥それに、セリ様が坊ちゃんに与えた月光美人には媚薬の効果もありまして‥」
「知らなかった。そんな効果もあったなんて、イヒム様ったら」
「あれでも坊ちゃんはかなりご自分を抑えられているんです」
「そうね。びやく‥わかったわ。ありがとう。少しひとりにさせてくれない?」
「はい、どうぞごゆっくり」
ヨールさんはすぐに出て行った。
ゆっくり風呂に入って気持ちを落ち着けるつもりが真逆だった。
唇の残った彼の香り。
熱い吐息や甘い蜜の味。
前世で知った交わりの快感や男の胸に身体を預けて眠る温もりが懐かしくも思う。
それに相手は番で私も彼が好きだとはっきり気づいてしまった。
ここがシェルビ国ならば結婚まではそんな事をするのは、はしたない事だといわれるだろうがここ名シェルビ国でもない。
もう、我慢しなくていいんじゃ?
いつまでも過去の事にこだわっているなんておかしいわよ。
風呂から出ると着替えが用意してあり私はそれに袖を通した。
薄いシルクのレースの美しいナイトウエア丈がひざ上で前を合わせてリボンで結ぶようになっていた。
いつもはくるぶしまで露わにしないドレスだけど、この姿彼は気に入ってくれるだろうか。
そわそわしながら髪の毛もブラシで何度も梳かして片側に一つにまとめた。
ヨールさんはもういないらしい。
ゆっくり風呂場から部屋に戻る扉に手を回す。
ガチャ。
「セリ?」
「カイヤート様」
「おまっ!やばい。セリが俺の名を呼んで?まっ!それ、か、か、かっ、可愛すぎだろ」
どんだけ噛んでるのよ。でも、そんな動揺を隠さない彼。好きだな。
だって、こんなふうに直球ストレートみたいな告白って今までされたことないし、日本人ってそういうの慣れてないし、まして貴族令嬢のセリーヌは問題外なほどそんな経験値ないし。
カイヤートがバタバタ走り寄って来て両手をぎゅっと包み込まれる。
真っ直ぐに私を見つめる瞳。
真ん中の赤い瞳孔は硬い決心が固まったかのようにぎゅっと濃い赤色に染まっていて、金色の虹彩はゆらゆらと揺らめいている。
「セリ、お前が好きだ。愛してる。俺の番。唯一。俺の全て。二度と離さない。ずっと一緒だ。だから‥」
きっと彼なりに考えたんだろうな。愛の告白。
すっと心がストンと落ちたみたいに言葉が紡ぎ出されて行く。
「カイヤート。あなたが好き。あなたの番でうれしい。一つお願いがあるの。ねぇ、私を絶対に離さないって約束してくれる?」
カイヤートの喉がごくりと動いた。
「セリ。はぁぁ~おまっ、それ相当やばい。ああ、お前を絶対に離さない。なにがあっても俺とお前はこの先ずっと一緒だ。俺の唯一なんだから‥」
そのまま抱きかかえられてベッドに寝かされる。
焦ったようなキスで唇を塞がれ何度もキスをする。
「せり‥」
ナイトウエアのリボンがゆっくり解かれ素肌をさらけ出されると彼はもうたまらないようにあちこちに唇をつけていく。
熱のこもった唇で、舌で肌をなぞられ私は甘い快楽に誘われる。
「はぁ~俺の番。たまらん。この匂いまじやべっ‥は~~~。優しくする。だから‥」
手慣れた指の動き。被さるように重なる胸。絡みついく足。
強張るからだを馴染ませるようにその手つきは優しい。けど。手慣れてる。
「かいやーと?」
「うん?」
蕩けた瞳でこちらを見る。
「いっぱいしたの?」
「なんだ?」
???顔。
彼が好き。もう一度誰かを信じてみようって思った。けど‥胸のざわつく不安が限界。
「だってぇ‥手慣れてるんだもの‥その手で何人の‥うわぁぁぁ~~ん」
慌てたようにピタッと目の前で彼が見つめる。
眦から伝い落ちた涙を優しく唇で拭われる。
そんなことしないで欲しい。優しくなんかされたくない。
「泣かせてごめん‥せり‥」と言いながらも私を逃がさないようにがっしりと私の上に被さったままで。
「すまん。過去の事はなかった事には出来ない。けど、未来永劫他の女になんか手を出さない。絶対にセリを悲しませるようなことはしない。約束する!」
「ほんとに?」
嬉しそうに聞いてしまう私。
何だかな。彼が言うとすべてが本気に思えてしまう。でも、嘘はつかないって思う。
「ああ、約束する」
彼が小指を出した。
ああ、指切り。
こうやって即断出来るって凄い。やっぱり私は彼を信じたいと思ってしまうな。
彼の小指にすっと指を巻き付けた。
彼の目尻がクシャとなって笑った。
「うん。ゆびきりげんまん。うそついたらはりせんぼんの~ます!指切った!」
その小指に口づけを落とされるとすべてを彼に委ねるように彼の首に腕を回した。
どこまでも甘いキスに蕩けさせられ快楽の揺さぶりに身も心のとっろとっろになって行く。
そしてやっと彼が。
迎え入れた事のない物を受け入れる。
「セリ。愛してる。もう離さない」
「いっ‥」
「嫌だと言ってももう遅い」
強張った声と共にぐっと彼が。
「ちがっ、いたいの」
「ごめん。痛くするつもりは‥」
しゅんとなった耳がかわいい。
「あっ‥やっ!」
ビリっと走る痛み。
「セリ‥」
焦るカイヤートの顔は蒼白で。
それでも彼を受け入れられたことに喜びを感じてぐっと我慢している彼に手を伸ばした。
「まっ!せり、そんなことしたら‥」
「いいの。あなたを感じたい」
「ぐふぅ!せ。り‥そ、そんな‥」
「ぐ、はっ!‥痛くは、ないか‥」
もっと欲しい。艶めかしい視線を送りながらも彼は優しい。
「きて‥かいやーと」
「おまっ!煽って‥やべぇ‥げ、ん、か、いだぁぁ~~~」
それから一晩中彼は私を離してくれなかった。
あ”あ”~~~、もう余計な事言うんじゃなかった。




