66番成就
私は有無を言わさないとばかりにカイヤートに横抱きにされる。
「ライノス。後のことは頼んだ」
ライノスさんが畏まった顔でカイヤートの前で跪いた。
「お任せ下さい。殿下。番との成就おめでとうございます。ここはお任せ下さい」
なになに?番との成就って?
私は混乱したまま「カイヤート?いいから下ろして」
はッ?何言ってんの?みたいな顔で。
「セリ?俺の事好きだって告白しただろ?」
「いつ貴方を好きって言った?」
「あんな事しておいて好きと言ったと同じじゃないか!いいから、部屋に行く。ヨール。風呂の仕度をしてくれ」
「畏まりました」
ヨールさんは何でもないような顔で先に行ってしまう。
ちょ、ちょ、待ってよ。番が成就したら何があるって言うのよ?
「セリ、心配するな。お前は初めてだからうんと優しくするから」
「はじめてだから‥?」
それって‥はっ?今からそう言うことをするつもり?
「ああ、はぁぁぁ~可愛い。俺の番。ずっとお前に触れたかった‥今日は思う存分お前を可愛がれる‥」
うっとりした顔で私を見下ろすカイヤートの瞳はすでに興奮状態らしく赤色の瞳孔がぐっと大きくなっている。
部屋まで強引に抱かれてぼすんとベッドの上に下ろされる。
「あの、誤解なのよ。ねぇカイヤート。聞いて、私、今すぐそんな事をするつもりはないわよ」
確かにカイヤートを失いたくないと思った。そばにいたいとも。好きだと思う。
でも、告白したからと言ってもいきなりやるって言うのは‥無理でしょ!
「何言ってるんだ!番は気持ちが繋がればすぐに蜜月に入るんだ!今は月喰いの日があるからずっと籠るわけにも行かないだろうけど、今夜は無理だ。お前の気持ちを知って俺がもう止まるとでも?」
「で、でも‥」
有無を言わさないキスが。
唇を塞がれ彼の熱い吐息と一緒にものすごい熱量が注がれる。
「うぅ。んんっ!」
彼が好きだ。でも、こんな強引にされるのは‥
強く抱き込まれて身じろぎできない。
やっぱりこんなの嫌だ!
ぐっと彼の唇に噛みつく。
「がはっ!いってぇ~」
カイヤートが驚いて私を離した。
「こんなのいや!」
私はベッドから出て扉の方に走る。
カイヤートの顔が一瞬で悲しそうになる。
「どうして?‥」
そこにヨールさんが現れた。
「坊ちゃん。セリ様は人間ですよ。獣人にはわかる事が分からないだけなんです。そんなにがっついたら嫌われますよ」
嫌われる。その一言が相当堪えたのか。カイヤートは私のそばに走り寄った。
「セリ?俺が嫌いか?」
「き、きらいじゃないわよ‥」
「だよな。俺達は番なんだから。なっ‥」
彼はほっとした顔で私にぴったりくっついて髪を梳く。
「セリ様、坊ちゃんは確かに今まで女の人と色々あった事はあります」
「ヨール何言ってるんだ!違うんだ。あれは‥」
カイヤートはバツが悪いのか私の髪をクルクル回す。
「坊ちゃん、いいから少し黙って下さい。いろいろありましたが、それは全く意味のない事なのです。獣人の番に対する本能はそれは凄まじいものがありまして番のためなら命さえ惜しくも無く。番を守るためならどんな事も厭いません。そして一度、番と気持ちが繋がるともう番を離しません。互いを求め蜜月を過ごします。セリ様にはこれがどういう事かお判りになりますか?」
「まあ、そういう事をしたくなるって事で?」
ヨールさんは笑って頷いた。
そう言う事で分かったの?わかるよね。
脳内で過去の交尾の映像がフラッシュバックする。
はぁ、完璧にそう言う事知ってるわたし‥
「はい、セリ様があのような行動をされたということは坊ちゃんを番と認めたという事で、それで坊ちゃんはすっかり舞い上がっているのですよ」
何となく事態が理解できると今度は彼とそう言うことをすると言う気恥ずかしさで
「もう、いきなりそんな事‥」
カイヤートに取ってこれはもう認めた発言だったらしく。
「セリ?はぁ、もうやばい。俺」
有無を言わさないキス。
「はぁぁぁぁぁ~、番の唇あまっ!」
「坊ちゃん!セリ様が恐がりますよ」
私が固まった事に気づいたらしい。
「セリ様、坊ちゃんはかなりパワーが‥」
「えっ?ああ、あの花。でもイヒム様が教えてくれたのよ。あの花には獣人を回復させる効果があるって‥えっ、だからって。えぇぇぇぇぇ~そんなつもりなかったのに~‥」
「聞いたろ?セリのおかげでパワー回復。フル充填だから!」
「坊ちゃん。先にセリ様にお風呂に入って頂きませんと‥」
「そんなの待ってられるかよ!」
「あっ、ヨールさん。ありがとうございます。お風呂いただきますね。カイヤート。ちょっと待っててくれない?」
「でも‥いや、セリが入りたいなら‥俺も一緒に」
彼の手が私の指を絡めとる。
「そんなの恥ずかしいから‥」
「でも‥」
「坊ちゃん!!セリ様はっきり嫌だと言えば番は聞き分けがいいんですよ」
ヨールさんはわかりやすく教えてくれる。
「待てますよね坊ちゃん!」
おお!グッジョブですヨールさん。
「そんなの出来る訳‥」
カイヤートが口ごもる。絡まった指先がぎゅっと私の手の甲にしがみ付く。
その途端彼の熱い思いが流れ込んで来る気がする。
なんだろう?離れたくないって思ってしまう。
「坊ちゃんもスッキリした方がよろしいかと」
私はやっとヨールさんの言った意味を理解する。
ああ、はっきり言えばいいんだ。
「カイヤート、今はまだ一緒に入るのは嫌なの。お願い」
「わかった。ごめんな。俺。‥シャ、シャワーして来る。セリゆっくり入って」
カイヤートははっとした顔になってすぐに私の手を放してくれた。
こういうところ好きだな。ほんとに番の嫌がることはしたくないんだ。
そうなると番って案外いいのかも知れない。
ああ、でも今はとにかく心の準備がしたい。
前世で経験はあるもののセリーヌはまだ初めてなんだから‥まずお風呂に入ろう。




