61看病(カイヤート)
思ってもいない所で昔遊んでいた女たちと出会った。
セリの怒りはすごくてばかな事をしたと思う。
でも、俺には今までそんな女もいなかったし、こんな俺でも皇族という名の元には色々な女が媚を売って来るからつい、俺も。
よりにもよってあいつら獣人の女以外は相手にしないとか言いやがって!
セリからは好きでもない女と見境もない男だって思われた。
だから信じられないって。
まあ、実際そうだった。けど。
はっきり拒否されて俺の心はズタズタで。
それでもセリを無理やり連れ帰る事なんか出来なくて。
そしたらイエンスの野郎がセリに毒を盛ったと聞いた。
毒は魔力で身体に害のない物に出来るらしくって食べても全然平気だったと。
ライノスからセリが牢に入れられたって聞いた時はイエンスを殺そうかと思った。
どうして無理にでも城から連れ出さなかったのかって後悔ばかりが押し寄せた。
そしたらいきなりセリから呼ぶ声がしたんだ。
シャワーしてて急いでシャワーを止めてもう一度耳を澄ませた。
すると耳の奥に助けてってセリの声がして、俺はもうすぐにシャツとズボンをはいてセリに呼ばれた所に転移したってわけだ。
冷たい牢の粗末なベッドに腰を掛けて儚げに震えているセリを見た時には、ぶち切れそうになった。
俺の番に何をしやがった?イエンスの野郎、引き裂いてやる!って。
それでも俺を呼んでくれた。そう思うと胸が期待に震えた。
でも、セリからはっきりと呼んだわけではないと言われてまたショックがぶり返しそうになる。
そして、許したわけじゃない。と拒絶されて。
こんなに好きなのにどうしてわかってくれないんだ?
でも、俺はこんな事で諦めたりしないからな。
お前は俺にとっても唯一なんだから。
するとセリが頼みがあると言ってくれた。
番の頼みならどんな事だって聞いてやる。
それは月喰いの日が迷信だと言う話。そんなことあるわけがない。セリは知らないからそんな事が言えるんだ。まあ、実際俺も見たわけではないがこれだけの獣人が言っているんだ。
魔物だって実際に存在してるじゃないか。
でも、よく聞けばザンクの花に毒があってその毒がみんなを苦しめるんだとか。
そう言う事なら何とかしなくてはと思う。
俺はすかさずセリに協力すると言った。
そしたらセリがいきなり気を失って倒れた。
良かった受け止められて。
俺、何やってんだセリはあんなに震えていたのにどうして気づかなかった?
「セリ?しっかりしろ」
そっとベッドに寝かせる。
ミーナは子供がいるので俺の乳母をしていたヨールを呼ぶ。
着替えさせてベッドに寝かせる。
イルがずっとそばを離れようとせずベッドの端っこにいる。
『カイヤート、セリの頼んだ事やってくれるか?』
『もちろんだ。すぐにライノスに指示を出す。そうだ、手紙も書かなきゃな。ビーサンは俺が呼べばすぐに来る。ビーサンに頼めば仲間を集めてくれるだろう』
『ああ、頼んだぞ。もう時間があまりないからな』
俺はすぐに執事のトロンドに指示を出した。
彼は俺の乳母だったヨールの夫でもある。この二人には本当に世話になりっぱなしなんだ。
「坊ちゃん。お嬢さんは薬が飲めるかね?」
ヨールがトレイに果実水らしいものと薬を乗せて来た。
「ああ、飲ませてみる。ありがとうヨール。もう遅いから休んでくれ。ヨール、トロンドにちょっと頼みごとをした。すまんな」
「とんでもありませんよ。坊ちゃん、何かあったらいつでも呼んで下さいね」
ヨールはそう言うと出て行った。
「セリ?起きれるか?熱があるみたいだ。薬を飲もうな」
セリはぐったりしていて俺が抱き起すと身をゆだねて来た。
意識は朦朧としているらしく薄っすらと目を開けた。
うれしいが、さっきまで髪の毛を振れるのも嫌がっていたセリ。
そんなに具合が悪いのかと思うと胸がぎゅっと締め付けられた。
「のど、かわいた」
かすれた声でセリが言った。
俺ははっとなって、急いで果実水を口に運んでやる。
ゆっくり口に流し込むと喉を果実水が通り抜ける音がしてなんだかほっとする。
「今度は薬だ。俺の乳母をしていたヨールって言う婆さんが飲みやすいように薬をはちみつで混ぜているんだ。さあ、口を開けて」
セリは言われた通りに口をあ~んと開ける。
か、かわいい。
ばか、セリは病気なんだ。可愛いなんて不謹慎だろ。
スプーンで薬を混ぜたはちみつを掬ってセリの口の中に入れる。
セリが口を閉じてゆっくりそれを飲み込む。
これが薬でなく給餌だったらどんなに幸せなんだろう。
そんな事を思いながら何度か薬を口に運んだ。
「セリ頭痛いか?」
セリはゆっくり頭を横に振る。
「そうか、どこか痛いところはないか?」
「寒いの」
「俺があっためてもいいか?」
セリは力なく俺に身を預けた。
それはどういう意味か考えたくなかった。
ただ、辛いから身を任せただけなのか。
俺を信頼しているからなのか。
俺を許してくれたのだったらどんなにいいだろう。って思いながら。
俺はずっとセリを抱きしめていた。
意識は朦朧としているらしくセリは俺に抱かれたままだ。
セリの香りがして体温が伝わって温もりが溶け合って。
ぶはっ!番の匂いやばいやばいやばい。
俺、もう抑えられないかも。
ばか!セリは病気だ。
ここで無理やりそんな事をしてみろセリは二度とお前を許さないぞ。いや、その前に自分が許せない。
だろ?
でも、セリのこの柔らかな肉感‥そっと柔肌に手を伸ばす。ぶはっ!たまらん!!
ばこっ!脳内ハンマー必殺一撃!
いかんいかんいかん。がまんだぁぁぁぁぁぁ~
かくして一晩中理性と欲望の戦いで俺、全然眠れなかった。
翌朝、セリが目を覚ました。
バッチリ目が合った。
「きゃぁ~。何であなたがここにいるのよ!もう、出て行ってよ!」
俺は慌ててベッドから飛び起きた。
ハハハ。やっぱりな。俺を許したわけじゃなかった。




