60ザンクの花を
カイヤートは顎が落ちたような驚愕な顔をした。そしてウソだろって首を振り、いやいやそれは絶対にないって手を振った。
まあ、気持ちは分かるけど。
「大体セリ。そんな話どこから聞いたんだ?」
「イヒム様です。私の身体にはイヒム様が宿っているので」
「はっ?」
しばし硬直状態。
「なっ、バカな話あるか」
『事実だ。俺も聞いている』お兄様はナイスフォロー!
「だが、月が食われるのは本当なんだって」
「ええ、それは天文学的にある事で、実は月ではなく太陽を遮るのです。月が太陽の前に少しずつ重なって行くんです」
「‥‥」
考え込むカイヤート。
まあ、これを理解するのは無理があると思う。とにかく今は難しい話は置いて。
「殿下いいですか?問題はそこではないんです。月食いの日に花をつけるザンクという花があるのをご存知ですか?」
「何だそれ?」
「百年に一度咲くというザンクの花は月食いの日と同じ周期なんです。今までその花のせいだと誰も気づかなかったんです。イヒム様は言いました。アード神は月食いの日の呪いなど起こしていないと。あれは後に獣人が作った迷信だとはっきり言ったんです。ザンクの花には猛毒があってその毒が頭をおかしくさせるんです。理性を失い獣の本能に支配される。思うままに暴れまわる。それが魔物の正体なんです」
「マジか‥」
良かった。理解した。
腕を組んで真面目な顔で考え込むカイヤート。超絶イケメンが真面目顔!
渋っ!萌える。胸のドキドキやばい。
その姿があまりに神々しく見えたりして。
「それで?どうすればいい?」
「へっ?」
「セリは何かをするつもりなんだろう?」
何だ?こいつ、どうしてこんなに話がわかる?カイヤートもあの皇王と同じ血を引いているんでしょう?イエンスなんかすごっくものわかり悪かったのに。
脳内をフル回転させる。
何をどうすればいいのか。
まずはザンクの花。ドラゴンを使って燃やす?浄化できるとしても範囲は限られるから。
国中をドラゴンで回れば何とか被害を最小限にとどめられるかも。
後、それにみんなに知らせないと。
知らせるなら転移が一番早いけど。国中となると二人では無理があるわ。
それに魔力も温存しておかなければ。
出来る限り魔力は浄化に使いたいもの。
「殿下、この国の情報網はどうなってるんです?手紙ですか?早馬とか?」
「まあ、緊急の時はドラゴンを頼る。何より早いからな」
「では、明日の朝一番に各地方にドラゴンに手紙を持たせて下さい。ザンクの花を燃やすように。そして知らせは急いで周りの街に知らせるよう指示して下さい」
「ああ、わかった。大至急手配しよう」
「そしてドラゴンにもザンクの花の駆除の手伝いを頼んで下さい。彼らは火を吐くんですよね?」
「ああ、あいつらならできるかもな」
良かった。これで何とか行けるかも。
そう思ったら、身体中の力が抜けていった。
「セリ?おい、大丈夫か?」
私の意識はそこで途切れた。




